以前、高感度トロポニンを用いた0/1時間法・0/2時間法について調べた。
急性心筋梗塞を短時間で評価できる非常に有用な方法であるが、一般的なクリニックで実施するのは難しい。
高感度トロポニンを院内で迅速測定できる設備が必要であり、外注検査では急性期の判断に間に合わないことが多い。
では、クリニックで胸痛患者を診察する際、何か参考になるスコアはないのだろうか。
お馴染みのHEART scoreである。
HEART scoreとは?
HEART scoreは、救急外来で胸痛患者の短期的な主要心血管イベント(MACE)リスクを評価するために開発されたスコアである。
以下の5項目を、それぞれ0〜2点で評価する。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| H:History | 病歴 |
| E:ECG | 心電図 |
| A:Age | 年齢 |
| R:Risk factors | 冠動脈疾患の危険因子 |
| T:Troponin | 心筋トロポニン |
合計10点満点で、一般的には以下のように分類される。
- 0〜3点:低リスク
- 4〜6点:中リスク
- 7〜10点:高リスク
従来の研究では、低リスク群の短期MACE発生率は約1〜2%と報告されている。
ただし、低リスクだからといって心筋梗塞を完全に否定できるわけではない。
しかしクリニックではHEART scoreを計算できない?
問題は最後のTroponinである。
一般的なクリニックでは、高感度トロポニンを迅速に測定することは難しい。
そのため、HEART scoreを完全な形で計算することはできない。
しかし、トロポニンを除いた4項目で評価するHEAR scoreというものがある。
HEAR scoreとは?
HEAR scoreは、以下の4項目で構成される。
| 項目 | 0点 | 1点 | 2点 |
|---|---|---|---|
| 病歴 | ACSを疑いにくい | 中程度 | 強く疑う |
| 心電図 | 正常 | 非特異的再分極異常 | 有意なST偏位 |
| 年齢 | 45歳未満 | 45〜64歳 | 65歳以上 |
| 危険因子 | なし | 1〜2個 | 3個以上、または動脈硬化性疾患の既往 |
合計8点満点となる。
HEAR scoreが極めて低い患者では、トロポニン測定を省略できる可能性について検討した研究もある。
ただし、HEAR score単独によるACS除外は十分に確立されていない。
特に一般診療所での安全な帰宅判断に使用できるとまでは強くいえない。
実際のクリニックではどう使う考えてみる
クリニックで胸痛患者を診察する際、重要なのは、心筋梗塞を確定診断することよりも、緊急紹介が必要な患者を見逃さないことである。
まず、胸痛の性状、持続時間、随伴症状、バイタルサインを確認する。
12誘導心電図が使用できれば、虚血性変化の有無を評価する。
そのうえで、HEAR scoreの構成要素を確認することは、リスク因子の見落としを減らす助けになると思う。
また、急性冠症候群以外にも、大動脈解離や肺塞栓症など、緊急対応を要する疾患がある。
HEAR scoreが低いことを理由に、急性冠症候群が疑われる患者の紹介を控えるべきではないことは前提である
注意点は
「45歳以上(1点)」で「高血圧や脂質異常症がある(1点)」だけで既に合計2点以上になるため、クリニックを訪れる中年〜高齢の胸痛患者の大半は「HEAR score単独では除外不能=紹介または高感度トロポニン測定が必要」という現実があるかもしれない
紹介基準・救急搬送の目安としての活用として使えるか?
- 救急車を呼ぶレベル(直ちに基幹病院へ):
- ECGでST上昇(STEMI)や新規の虚血性ST低下・陰性T波
- HEAR scoreで高得点(5〜8点)かつ発症直後・症状持続中
- バイタルサイン不安定、冷汗、失神などを伴う
- 当日〜翌日中に循環器外来へ紹介するレベル:
- HEAR scoreが中等度(2〜4点):発症から時間が経過しており症状は軽快しているが、冠危険因子や疑わしい病歴がある場合(不安定狭心症やNSTEMIの可能性を考慮して精査を依頼)。
- 非心原性を考えつつ慎重に経過観察するレベル:
- HEAR scoreが0〜1点(若年、危険因子なし、心電図正常、胸壁痛など)
まとめ
高感度トロポニンを用いた0/1時間法・0/2時間法は、急性心筋梗塞の診断に非常に有用である。
しかし、一般診療所で同じ診断アルゴリズムを実施することは難しい。
HEART scoreもトロポニンが必要なため、そのまま利用することはできない。
一方、トロポニンを除いたHEAR scoreであれば、病歴、心電図、年齢、危険因子から評価することができる。
もちろん、HEAR scoreだけで心筋梗塞を除外することはできない。
それでも、胸痛患者を診察する際に評価すべき項目を整理するという意味では、知っておいて損はないスコアだと思う。
クリニックでは、HEART scoreを診断のために使うというより、HEARの4項目を意識して、紹介すべき胸痛患者を見極めることが大切なのだろう。
参考文献
- Six AJ, et al. Chest pain in the emergency room: value of the HEART score. Neth Heart J. 2008;16:191–196.
- Mahler SA, et al. The HEART Pathway randomized trial. Circ Cardiovasc Qual Outcomes. 2015;8:195–203.
- Smith LM, et al. Identification of very low-risk acute chest pain patients without troponin testing. Emerg Med J.2020;37:690–695.
- Gulati M, et al. 2021 AHA/ACC Guideline for the Evaluation and Diagnosis of Chest Pain. Circulation.2021;144–e454.


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