胸痛患者を診察する際、最も見逃したくない疾患の一つが急性心筋梗塞である。
以前は心筋トロポニンを数時間おきに測定していたが、現在は高感度心筋トロポニン(hs-cTn)の登場により、短時間で心筋梗塞の可能性を評価できるようになった。
代表的なのが、欧州心臓病学会(ESC)が推奨する0/1時間法と0/2時間法である。
1.0/1時間法・0/2時間法とは?
来院時(0時間)と、その1時間後または2時間後に高感度トロポニンを測定する方法である。
重要なのは、単にトロポニンが基準値を超えているかどうかではない。
初回の絶対値と、その後の変化量(Δ値)を組み合わせて評価する。
<escape>・</escape> 初回値が非常に低い、または低値で変化も小さい → Rule-out(心筋梗塞の除外)
<escape>・</escape> 初回値が高い、または短時間で明らかに上昇する → Rule-in(心筋梗塞の可能性が高い)
<escape>・</escape> どちらにも該当しない → Observe(追加観察)
なお、測定値のカットオフは使用する高感度トロポニンT・Iの測定系によって異なる。
2.1時間法と2時間法の違い
| 0/1時間法 | 0/2時間法 | |
|---|---|---|
| 初回採血 | 来院時 | 来院時 |
| 再採血 | 1時間後 | 2時間後 |
| 利点 | 迅速な判断 | 採血時間を確保しやすい |
| ESCの位置づけ | 第一選択 | 第二選択 |
2023年ESCガイドラインでは0/1時間法が第一選択、0/2時間法が第二選択として推奨されている。
ただし、2時間法は1時間法の判定基準を単純に流用するものではなく、それぞれの時間間隔と測定系に対応した基準を用いる。
3.どのくらい正確なのか?
0/1時間法および0/2時間法は、大規模な臨床研究で検証されている。
Rule-out群における心筋梗塞の陰性的中率(NPV)は、多くの検証研究で99%以上と報告されている。
ただし、陰性的中率99%以上というのは、心筋梗塞を100%否定できるという意味ではない。
また、心筋梗塞の除外と、不安定狭心症を含む急性冠症候群全体の除外は同義ではない。
心電図所見、胸痛の性状、発症からの時間などを総合的に判断する必要がある。
4.発症直後の胸痛には注意
胸痛が始まって間もない場合、初回トロポニンが低値でも、その後上昇する可能性がある。
そのため、単回採血によるRule-outには発症からの経過時間に関する条件がある。
ESCのアルゴリズムでは、初回値が極めて低いことによる単回Rule-outは、原則として発症から3時間を超えている場合に適用される。
また、0/1時間法・0/2時間法でも、判定がつかない場合には3時間時点などで追加測定を行う。
持続・再発する胸痛や虚血を疑う所見がある場合には、検査値だけで判断してはいけない。
5.トロポニンが上昇していれば心筋梗塞なのか?
必ずしもそうではない。
トロポニンは心筋障害を反映するマーカーであり、心筋梗塞以外にも以下のような病態で上昇する。
- 心筋炎
- 心不全
- 肺塞栓症
- 頻脈性不整脈
- 腎機能障害
- 敗血症
心筋梗塞の診断には、トロポニンの上昇・下降だけでなく、虚血を示唆する症状、心電図変化、画像所見などが必要となる。
したがって、Rule-inは心筋梗塞の確定診断ではなく、迅速な追加評価が必要な状態を意味する。
6.一般診療所ではどう考えるか?
開業医の視点で考えてみる
この診断法は非常に有用であるが、一般診療所で実施するのは簡単ではない。
高感度トロポニンを迅速に測定できる設備が必要であり、外注検査では通常、1〜2時間以内に結果を得ることが難しい。
そのため、この判断に頼ることはできないだろう
まとめ
高感度トロポニンを用いた0/1時間法・0/2時間法は、急性心筋梗塞の診断を大きく変えた。
一方、これらは検査値だけで診断する方法ではなく、病歴や心電図と組み合わせることが前提である。
一般診療所では、トロポニンが測定できないことを踏まえ、急性冠症候群を疑う患者を適切に見極め、迅速に紹介することが重要である。
参考文献
- Byrne RA, et al. 2023 ESC Guidelines for the management of acute coronary syndromes. Eur Heart J.2023;44:3720–3826.
- Kontos MC, et al. 2022 ACC Expert Consensus Decision Pathway on the Evaluation and Disposition of Acute Chest Pain in the Emergency Department. J Am Coll Cardiol. 2022;80:1925–1960.
- Gulati M, et al. 2021 AHA/ACC Guideline for the Evaluation and Diagnosis of Chest Pain. Circulation.2021;144–e454.


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