近年、心不全の分類や治療の考え方が大きく整理されてきている。
個人的に面白いと感じているのは、これまで使われてきた「HFmrEF(LVEF 41〜49%)」の実質的な立ち位置の変化だ。 従来は、
- HFrEF:LVEF 40%以下
- HFmrEF:41〜49%
- HFpEF:50%以上
と3つに厳密に分類されていた。 しかし、その後のエビデンスの蓄積により、41〜49%の層も病態や薬物療法への反応性がHFrEFにかなり近いことが分かってきた。
そのため実臨床や最新の議論では、「EF 50%未満なら基本治療を積極的に届ける」という、よりシンプルな考え方にシフトしつつある。
EF 45%の患者を見て「これはHFmrEFだから…」と過剰に別枠扱いする時代ではなくなってきたと言える。
もう一つ腑に落ちたのが、心不全悪化に対する捉え方だ。 単に「急性心不全(Acute Heart Failure)」と時間の概念で呼ぶよりも、病態としては「非代償性心不全(Decompensated Heart Failure)」と捉えた方が確かにしっくりくる。
心不全の増悪は突然ゼロから起こるというより、徐々にうっ血や心機能低下が進み、身体の代償機構が耐えきれなくなって表面化することが多いからだ。
治療の整理についても、これまでの「GDMT(ガイドラインに基づく薬物療法)」という言葉をさらに解像度高く捉える動きが広がっている。
- FMT(Foundational Medical Therapy):予後改善の土台となる治療(β遮断薬、ARNI/ACEi/ARB、MRA、SGLT2阻害薬の4本柱)
- AMT(Additional Medical Therapy):病態に応じて上乗せする治療(ベリシグアトやジゴキシンなど)
- GDIT(Guideline-Directed Interventional Therapy):デバイスやカテーテル治療(CRT、ICD、TEERなど)
「心不全を発症する前からの介入」に重きを置いている
日米欧のユニバーサル定義でも定着したステージ分類、
- Stage A:心不全リスク(高血圧、糖尿病、肥満など)
- Stage B:構造的心疾患・バイオマーカー上昇(無症状)
- Stage C:症候性心不全
- Stage D:進行心不全
これに基づき、高血圧や肥満の管理は単なる生活習慣病治療ではなく「将来の心不全を防ぐ早期治療」として明確に位置づけられている。 特に肥満を伴うHFpEFに対しては、STEP-HFpEF試験などのエビデンスを背景に、セマグルチドやチルゼパチドといったGLP-1系薬剤が体重減少だけでなく症状・QOLを改善する選択肢として存在感を増している。
糖尿病や肥満の薬が、実質的な心不全治療薬として扱われるようになった象徴的な変化だ。
近年の心不全診療を見ていると、 「EFが何%かを細かく区切る」ことから、 「発症前(Stage A/B)から代謝・リスク因子を叩き、発症したら有効な土台治療をできるだけ早く揃える」 方向へと確実に軸足が移っている。


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