マダニが媒介する感染症といえば、ライム病を思い浮かべる人も多いのではないだろうか。
しかし、日本で臨床的に重要なマダニ媒介感染症には、日本紅斑熱やSFTS(重症熱性血小板減少症候群)もある。
マダニかなり厄介やな
いずれもマダニを介して感染するが、原因となる病原体や臨床症状、治療法は大きく異なる。
今回は、この3つの感染症について整理してみたい。
1.ライム病(Lyme disease)
ライム病は、ボレリア属の細菌による感染症である。
ボレリアはスピロヘータに分類され、梅毒の原因となるトレポネーマと同じグループに属する。
日本では北海道や本州中部以北での報告が多く、主にシュルツェマダニによって媒介される。
潜伏期間は通常3〜30日程度である。
特徴的な症状は、マダニ刺咬部を中心に拡大する**遊走性紅斑(erythema migrans)**である。
初期には発熱、倦怠感、筋肉痛などを伴うことがあり、感染が全身に広がると顔面神経麻痺、髄膜炎、関節炎、心炎などを生じる場合がある。
特に心炎では房室ブロックなどの刺激伝導障害が問題となる。
診断には臨床症状に加えて血清学的検査などを用いるが、感染早期には抗体検査が陰性となることもある。
治療にはドキシサイクリンやアモキシシリンなどの抗菌薬が用いられ、神経症状や重症心炎などではセフトリアキソンの静脈投与が必要になることもある。
2.日本紅斑熱(Japanese spotted fever)
日本紅斑熱は、Rickettsia japonica による感染症である。
リケッチアは細菌の一種だが、偏性細胞内寄生性という特徴を持つ。
1984年に日本で初めて報告され、現在では西日本を中心に広い地域で発生が確認されている。
潜伏期間は2〜8日程度と比較的短い。
臨床的には、次の3つが特徴的である。
- 発熱
- 発疹
- 刺し口(黒色痂皮)
発疹は四肢から体幹に広がり、手掌や足底にも認められることがある。
血液検査では、CRP上昇、肝酵素上昇、血小板減少などを認める。
重症例ではDICや多臓器不全、ショックを引き起こすこともある。
治療の第一選択はドキシサイクリンなどのテトラサイクリン系抗菌薬である。
注意すべきなのは、セフェム系やペニシリン系などのβラクタム系抗菌薬が無効であることである。
そのため、日本紅斑熱を疑った場合には、検査による確定診断を待たずに適切な抗菌薬を開始することが重要となる。
3.SFTS(重症熱性血小板減少症候群)
SFTSは、SFTSウイルスによる感染症である。
ライム病や日本紅斑熱とは異なり、ウイルス感染症であることが最大の違いである。
日本では2013年に初めて患者が確認され、当初は西日本を中心に報告されていたが、近年は発生地域が拡大している。
潜伏期間は通常6〜14日程度である。
主な症状は発熱、全身倦怠感、食欲不振、嘔吐、下痢などである。
血液検査では、白血球減少と血小板減少が特徴的であり、肝酵素やLDH、CKなどの上昇を伴うこともある。
重症例では血球貪食症候群、DIC、意識障害、ショック、多臓器不全を生じる。
国内の報告では致命率が高く、特に高齢者で重症化しやすいことが知られている。
治療については、2024年6月に抗ウイルス薬であるファビピラビルが国内で承認された。
ただし、薬物療法だけでなく、循環・呼吸管理や臓器障害への対応など、全身管理が極めて重要である。
また、SFTSはマダニだけでなく、感染した猫や犬などの動物から感染することがあり、患者の血液や体液を介したヒトからヒトへの感染にも注意が必要である。
4.3つの感染症の比較
| 項目 | ライム病 | 日本紅斑熱 | SFTS |
|---|---|---|---|
| 病原体 | ボレリア | リケッチア | ウイルス |
| 潜伏期間 | 3〜30日 | 2〜8日 | 6〜14日 |
| 特徴的な症状 | 遊走性紅斑 | 発熱・発疹・刺し口 | 発熱・消化器症状 |
| 血小板減少 | 典型的ではない | あり | 特徴的 |
| 重症化 | 神経障害・心炎 | DIC・ショック | 多臓器不全・ショック |
| 主な治療 | 抗菌薬 | テトラサイクリン系 | ファビピラビル・支持療法 |
5.臨床的に重要なのは何か?
個人的に重要だと思うのは、日本紅斑熱とSFTSの鑑別である。
そもそも診断できるかも大きな問題やな
刺し口わからんかったら初見は浮かばんよな
どちらも発熱、血小板減少、肝酵素上昇などを認めることがあり、初期には臨床像が類似する。
日本紅斑熱では発疹や刺し口が診断の手がかりとなる一方、SFTSでは消化器症状や白血球減少が目立つことが多い。
ただし、これらの症状だけで完全に鑑別できるわけではない。
日本紅斑熱は抗菌薬による早期治療が重要であり、SFTSでは重症化を見据えた全身管理と感染対策が求められる。
まとめ
同じマダニが媒介する感染症でも、ライム病、日本紅斑熱、SFTSは大きく異なる。
ライム病では遊走性紅斑、日本紅斑熱では発熱・発疹・刺し口、SFTSでは発熱・消化器症状・血球減少が診断の手がかりとなる。
特に日本紅斑熱とSFTSは重症化するとショックや多臓器不全に至ることがあり、早期の認識が重要である。
普段の診療で遭遇する機会は多くないかもしれないが、不明熱の鑑別にあるもの、これらの感染症を鑑別に挙げられるようにしておきたい。
参考文献・資料
- 国立健康危機管理研究機構:ライム病(2026年3月23日更新)
- 国立健康危機管理研究機構:日本紅斑熱(2025年7月24日更新)
- 国立健康危機管理研究機構:重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
- 厚生労働省:重症熱性血小板減少症候群(SFTS)診療の手引き2025年版


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