食べるとみぞおちが痛い——正中弓状靱帯圧迫症候群 MALS という慢性腹痛の視点

健康・減量

初見で診断できるか?ちょっと自信がないかもしれん

少なくとも概念を知ってないと、診断にはたどり着けず、不定愁訴になってしまう可能性がある

だから学習しておこう

食後にみぞおちが痛くなる。
吐き気がする。
食べるのが怖くなって、食事量が減る。
だんだん体重が落ちていく。

胃カメラをしても、血液検査をしても、腹部エコーをしても、はっきりした異常が見つからない。
「ストレスでしょうか」
「機能性腹痛でしょうか」
「胃腸が弱いのでしょうか」

そんな慢性腹痛の中に、まれではありますが、正中弓状靱帯圧迫症候群という病気が隠れていることがあります。

chatGPTもめちゃんこ進化したな、画像作成

英語では Median Arcuate Ligament Syndrome、略して MALS と呼ばれます。
別名として Dunbar syndrome、あるいは celiac artery compression syndrome と呼ばれることもあります。


しかし、慢性腹痛、とくに「食後のみぞおちの痛み」と「体重減少」がある人では、知っておく価値のある病気です。

MALSとは何か

MALSは、横隔膜の一部である正中弓状靱帯が、腹部の重要な血管である腹腔動脈の起始部を圧迫することで起こる症候群です。

腹腔動脈は、大動脈から分かれて、胃、肝臓、脾臓、膵臓、十二指腸などに血液を送る大切な血管です。その腹腔動脈の根元のすぐ近くに、横隔膜の線維性構造である正中弓状靱帯があります。

普通は、この靱帯と腹腔動脈は問題を起こしません。
しかし、腹腔動脈の起始部がやや高い位置にあったり、正中弓状靱帯が低い位置を走っていたりすると、靱帯が腹腔動脈を外側から押さえつけることがあります。

その結果、腹腔動脈の血流が障害される。
さらに、腹腔動脈の周囲にある腹腔神経叢も圧迫・刺激される。

この血管性の問題と神経性の問題が重なって、慢性的な上腹部痛が起こると考えられています。

つまりMALSは、単純に「血管が狭い病気」というより、
腹腔動脈の圧迫
腹腔神経叢の刺激が重なった、やや複雑な慢性腹痛症候群です。

どんな症状が出るのか

MALSでよく言われる症状は、食後の心窩部痛です。
心窩部とは、いわゆる「みぞおち」のあたりです。

典型的には、

  • 食後のみぞおちの痛み
  • 吐き気
  • 嘔吐
  • 腹部膨満感
  • 早期満腹感
  • 食欲低下
  • 体重減少
  • 運動時の上腹部痛

などがみられます。

特に大事なのは、
「食べると痛い」→「食べるのが怖い」→「食事量が減る」→「体重が落ちる」
という流れです。

MALSは若年女性に多い傾向があるとされますが、男性にも、小児にも、思春期にも起こりえます。

慢性腹痛の患者さんの中で、食後に症状が強くなり、吐き気や食事回避、体重減少を伴う場合には、MALSを鑑別に入れる意味があります。

なぜ食後に痛くなるのか

食事をすると、胃や腸は消化のために活発に働きます。
そのため、胃・十二指腸・膵臓・肝臓などへの血流需要も増えます。

ところが、腹腔動脈の起始部が圧迫されていると、食後に必要な血流を十分に供給できない可能性があります。
これが、いわゆる「腹部アンギーナ」のような食後痛につながると考えられています。

ただし、MALSの痛みは血流低下だけで説明できない部分もあります。
腹腔動脈周囲には腹腔神経叢という神経のネットワークがあり、ここが圧迫・刺激されることで、神経痛のような痛み、吐き気、胃腸運動の異常が出る可能性もあります。

だからこそ、MALSは「血管が狭いから痛い」と単純化しすぎない方がよい病気です。
血管と神経の両方を見る必要があります。

画像で狭いだけではMALSとは言えない

ここがMALSの一番難しいところです。

CTやエコーで腹腔動脈の圧迫が見つかっても、それだけでMALSとは診断できません。
なぜなら、腹腔動脈が正中弓状靱帯に圧迫されている所見は、症状のない人にも見つかるからです。

無症状者を対象にしたCT angiographyの研究では、正中弓状靱帯による腹腔動脈圧迫所見が、正常無症状集団の約3.4%に見られたと報告されています。

つまり、画像で「腹腔動脈が狭い」と書かれていても、それが腹痛の原因とは限りません。

MALSと診断するには、

  1. 症状がMALSらしい
  2. 他の腹痛の原因が否定的である
  3. 腹腔動脈起始部の圧迫所見がある
  4. 呼吸による血流変化がある
  5. 臨床経過として症状と画像が結びつく

という複数の条件を合わせて考える必要があります。

これは非常に重要です。
MALSは「画像診断名」ではありません。
症状と画像が一致して初めて意味を持つ診断名です。

呼吸で変わるという特徴

MALSの特徴の一つに、圧迫の程度が呼吸で変わることがあります

一般に、呼気で横隔膜が上がると、正中弓状靱帯による腹腔動脈圧迫が強くなります。
一方、吸気で横隔膜が下がると、圧迫が弱くなります。

そのためMALSを疑うときは、腹腔動脈を一回見るだけでは不十分です。
吸気と呼気でどう変わるかを見る必要があります。

腹部ドプラエコーでは、腹腔動脈の peak systolic velocity、つまり収縮期最高血流速度を評価します。
MALSでは、呼気時に腹腔動脈の流速が上昇し、吸気時に改善することがあります。

CT angiographyでは、腹腔動脈起始部が限局的に狭くなり、下方へ折れ曲がるように見えることがあります。
これは hooked appearance と呼ばれます。

ただし、hooked appearanceも、単独で診断を決める所見ではありません。
症状、呼吸性変化、他疾患の除外と合わせて判断する必要があります。

検査は何をするのか

MALSを疑う場合、主に以下の検査が使われます。

1. 腹部ドプラエコー

腹腔動脈の血流速度、狭窄の程度、呼吸による変化を評価します。
MALSでは、呼気で流速が上がり、吸気で改善する所見が手がかりになります。

ただし、通常の腹部エコーでは腹腔動脈の呼吸性変化まで詳しく見られないことがあります。

2. 造影CT angiography

CTAでは、腹腔動脈起始部の限局性狭窄、hooked appearance、狭窄後拡張、周囲血管の状態を評価します。
MALSを疑う場合には、可能であれば呼吸相を意識した評価が望まれます。

3. MRA

被曝を避けたい場合、小児・若年者ではMRAも選択肢になります。
CTAほど手軽ではない場合もありますが、血管の形態評価として有用です。

4. 他疾患の除外

MALSは除外診断的な側面があります。

慢性腹痛では、

  • 胃十二指腸潰瘍
  • 胃食道逆流症
  • 胆石、胆嚢炎
  • 膵炎
  • 炎症性腸疾患
  • 好酸球性消化管疾患
  • 腹部片頭痛
  • 過敏性腸症候群
  • SMA症候群
  • 摂食障害
  • 起立性調節障害に伴う腹部症状
  • 機能性腹痛

なども鑑別に入ります。

MALSらしい画像があっても、他の病気で説明できる腹痛であれば、MALSとは言い切れません。

小児・思春期でも起こる

MALSは成人だけの病気ではありません。
小児、特に思春期でも報告されています。

小児では、慢性腹痛として受診し、最初は「機能性腹痛」「心因性腹痛」「過敏性腸症候群」と考えられることがあります。
実際、小児MALSの報告では、慢性機能性腹痛と症状が重なることが示されています。

小児でMALSを考えるきっかけになるのは、

  • 食後の心窩部痛
  • 吐き気
  • 食事量低下
  • 体重減少
  • 通常の消化器検査で説明困難
  • 学校生活への影響
  • 運動時の上腹部痛

などです。

ただし、小児ではもう一つ大事な視点があります。
慢性腹痛が長く続くと、痛みに対する不安、摂食回避、学校生活への影響、慢性疼痛化が重なってきます。

そのため、
MALSか心因性か
と二分するより、
MALSがあり、そこに慢性疼痛、不安、生活障害が重なっている可能性
として考える方が現実的です。

ACNESとの違い

慢性腹痛で見逃されやすい病気として、ACNESがあります。

これは以前記載したね
ACNESは Anterior Cutaneous Nerve Entrapment Syndrome、日本語では前皮神経絞扼症候群、あるいは腹壁神経絞扼症候群と呼ばれます。

MALSとACNESはまったく別の病気です。

MALSは、腹腔動脈や腹腔神経叢の圧迫による、内臓側に近い痛みです。
一方、ACNESは腹壁を走る神経が絞扼されて起こる、腹壁由来の神経痛です。

ACNESでは、

  • 痛い場所を指1本で示せる
  • 腹直筋外縁あたりに限局した圧痛点がある
  • 皮膚のピリピリ感、知覚過敏がある
  • 起き上がり、咳、運動、姿勢変化で悪化する
  • 食事との関係は薄い
  • Carnett徴候が陽性

という特徴があります。

Carnett徴候とは、痛い場所を押さえながら腹筋に力を入れてもらう診察です。
頭を上げる、足を上げるなどで腹壁を緊張させます。
そのとき痛みが増える、または変わらなければ、腹壁由来の痛みを疑います。

一方、MALSでは痛みは一点というより、みぞおちの奥の痛みとして出やすく、食後痛、吐き気、体重減少が重要です。

慢性腹痛では、まずACNESのような腹壁由来疼痛を診察で拾い、その上で症状の流れからMALSを考える、という順番が実用的です。

高安動脈炎との違い

腹腔動脈狭窄という意味では、高安動脈炎も鑑別に入ります。

ただし、MALSと高安動脈炎は本質が違います。

MALSは、正中弓状靱帯が外から腹腔動脈を圧迫する病気です。
高安動脈炎は、大動脈やその主要分枝に炎症が起こる大型血管炎です。

高安動脈炎を疑う所見としては、

  • 原因不明の発熱
  • 倦怠感
  • 炎症反応上昇
  • 血圧左右差
  • 脈拍低下
  • 頸部・鎖骨上・腹部の血管雑音
  • 高血圧
  • 腎動脈狭窄
  • 大動脈や鎖骨下動脈、総頸動脈、腎動脈、上腸間膜動脈などの多発血管病変

などがあります。

MALSでは、腹腔動脈起始部の限局的圧迫、hooked appearance、呼吸性変化、他の大血管病変がないことがポイントになります。

つまり、腹腔動脈が狭いからといって、すぐMALSとは言えません。
逆に、腹腔動脈狭窄だけで高安動脈炎と決めることもできません。

血管壁の炎症、他血管病変、炎症反応、脈拍や血圧差を含めて評価する必要があります。

治療はどうするのか

症状が軽く、画像所見だけの場合は、すぐに手術というわけではありません。
MALSは画像だけで診断してはいけない病気だからです。

本当に典型的な症状があり、他疾患が除外され、ドプラエコーやCTAでMALSに合う所見がある場合、治療としては正中弓状靱帯切離術が検討されます。

多くの場合、腹腔動脈周囲の線維組織や腹腔神経叢を剥離するneurolysisも一緒に行われます。

近年は腹腔鏡やロボット支援による低侵襲手術の報告も増えています。
MALSでは外から靱帯に押されているため、まず外科的減圧が中心になります。
減圧後にも狭窄が残る場合に、血管形成、ステント、バイパス、血管再建などが検討されることがあります。

手術すれば必ず治るのか

MALSは、手術で劇的に改善する人がいる一方で、全員が完全に治るわけではありません。

成人・小児を含めた系統的レビューでは、多くの研究で治療後70%以上の持続的な症状改善が示唆されています。
一方で、研究ごとに診断基準、治療方法、評価方法がばらばらで、バイアスのリスクが高いことも指摘されています。

つまり、MALSの手術は効く人には効きます。
しかし、診断を間違えると効きません。

画像所見だけで手術に進むのではなく、症状、画像、呼吸性変化、除外診断、慢性疼痛や心理社会的背景まで含めて、慎重に判断する必要があります。

どんなときにMALSを考えるべきか

慢性腹痛の人全員にMALS検査が必要なわけではありません。

ただし、以下のような場合はMALSを鑑別に入れてよいと思います。

  • みぞおちの痛みが続く
  • 食後に痛みが悪化する
  • 吐き気や嘔吐がある
  • 食事量が減っている
  • 体重が減っている
  • 通常の消化器検査で説明がつかない
  • 運動時にも上腹部痛がある
  • 痩せ型の思春期・若年者
  • 腹部血管雑音がある
  • CTやエコーで腹腔動脈起始部狭窄を指摘された

逆に、

  • 痛みの場所を指1本で示せる
  • 一点を押すと強く痛い
  • 腹筋に力を入れると痛みが増える
  • 食事と関係が薄い
  • 皮膚のピリピリ感がある

という場合は、MALSよりACNESなど腹壁由来の痛みを考える方が自然です。

まとめ

正中弓状靱帯圧迫症候群、MALSは、まれですが、慢性腹痛の鑑別として知っておく価値のある病気です。

特に、
食後のみぞおちの痛み
吐き気
食事回避
体重減少
通常の検査で説明がつかない
という流れがある場合には、MALSを思い出してもよいと思います。

一方で、腹腔動脈が少し圧迫されている画像所見は、症状のない人にも見つかります。
だからこそ、MALSは画像だけで診断してはいけません。

症状、身体所見、他疾患の除外、ドプラエコーやCTAでの呼吸性変化。
それらを合わせて、初めて診断に近づきます。

慢性腹痛は、ときに「ストレス」「気のせい」「機能性」で片付けられてしまいます。
もちろん機能性腹痛は多いです。
しかし、その中に、MALSやACNESのような、診察や画像の見方を変えることで見えてくる病気が混じっていることがあります。

腹痛を「お腹の中」だけでなく、
血管、神経、腹壁、そして生活への影響まで含めて見る。

MALSは、そんな視点を教えてくれる病気だと思います。


参考文献

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※この記事は医学情報の整理であり、個別の診断や治療方針を示すものではありません。食後の強い腹痛、嘔吐、体重減少、血便、発熱、脱水などがある場合は、医療機関での評価が必要です。

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