以前から、膵癌とアルコールの関係が気になっている。
アルコールが慢性膵炎を起こし、慢性膵炎が膵癌のリスクになることはよく知られている。
しかし、臨床的な慢性膵炎まで進まなくても、長年にわたって軽微な膵障害を繰り返している人がいて、それが膵癌の発生を促進しているのではないか。
そんなことを考えていると、一つ単純な疑問が出てきた。
「生涯まったく酒を飲まなかった人にも、膵癌は発生するのだろうか?」
まぁ発生はすると思うのだが・・・
一見簡単な問いだが、調べてみると意外と難しい。
疫学研究でいう「non-drinker」には、昔は飲んでいたが現在はやめているformer drinkerが含まれていることがあるからだ。
健康上の理由ですでに禁酒した人まで非飲酒群に入れば、純粋な「酒を一度も飲まなかった人」のリスクは分からなくなる。
2025年、PLOS Medicineに興味深い研究が報告された。
Naudinらは、アジア、オーストラリア、ヨーロッパ、北米の30の前向きコホート、約249万人を統合して、飲酒量と膵癌発生との関連を調べた。中央値15.6年の追跡期間中に、10,067例の膵癌が発生している。
そして、このうち過去の飲酒歴まで分かる7つのコホートでは、never drinkerとformer drinkerを分離して解析した。
結果がおもしろい。
ごく少量の飲酒者(0.1~5 g/day)を基準にすると、生涯非飲酒者の膵癌リスクは、
女性:HR 0.93(95%CI 0.79–1.09)
男性:HR 0.96(95%CI 0.73–1.26)
だった。
つまり、
生涯まったく飲酒しない人にも膵癌は発生するし、そのリスクはごく少量飲酒する人とほとんど変わらない。
一方で、飲酒量が増えると膵癌リスクは上昇し、全体ではアルコール10 g/day増加ごとに膵癌リスクが約3%上昇した。男性では30~60 g/dayでHR 1.15、60 g/day以上ではHR 1.36だった。
この結果を見ると、アルコールを膵癌の「原因そのもの」と考えるのは少し違うのかもしれない。
むしろ、
加齢や自然に生じる遺伝子変異などによって存在するbaselineの膵発癌過程があり、アルコールはそれを促進する。
というモデルの方が合っているように思える。
この研究が示したのは主として「相対リスク」であり、生涯完全禁酒者だけを集めたとき、膵癌の絶対発生率が10万人・年あたり何人なのかという、自分が本当に知りたい数字は明確ではない。
「酒を飲まなければ膵癌はどこまで減るのか?」
単純な疑問だが、意外と答えはまだきれいには出ていない。
Naudin S, et al. Alcohol intake and pancreatic cancer risk: An analysis from 30 prospective studies across Asia, Australia, Europe, and North America. PLoS Med. 2025;22:e1004590.


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