マルトフィリアは市中肺炎の原因菌になるのか?

肺炎の原因菌として、Stenotrophomonas maltophilia(ステノトロホモナス・マルトフィリア)という菌がある。

マルトフィリアといえば、院内感染や人工呼吸器関連肺炎、免疫不全患者の日和見感染症などで問題になる菌という印象が強い。

しかし、ふと疑問に思った。

「入院歴も抗菌薬使用歴もない患者が、最初からマルトフィリアによる市中肺炎を発症することはあるのだろうか?」

調べてみると、興味深い論文が見つかった。

大阪市立大学からの興味深い報告

2021年、大阪市立大学(現在の大阪公立大学)の研究グループが、Journal of Hospital Infection に以下の論文を発表している。

In which cases of pneumonia should we consider treatments for Stenotrophomonas maltophilia?

Imoto W, et al. J Hosp Infect. 2021;111:169–175.

https://doi.org/10.1016/j.jhin.2021.01.011

この研究では、2010年から2019年までの10年間に、喀痰培養でマルトフィリアが検出された2,002例を後方視的に検討している。

肺炎の有無や抗菌薬への反応性などを踏まえて症例を選別し、最終的に99例を比較対象とした。

その結果、

  • マルトフィリアが肺炎の原因菌と判断された症例:8例
  • 他の病原体による肺炎と判断された症例:91例

であった。

つまり、喀痰からマルトフィリアが検出されても、実際に肺炎の原因菌と判断できる症例は限られていた。

ただし、8例という数字は厳格な選択基準で抽出された結果であり、2,002例中の肺炎発症率がそのまま0.4%だったという意味ではない。

どのような症例でマルトフィリア肺炎を疑うべきか?

マルトフィリア肺炎群では、他の病原体による肺炎群と比較してSOFAスコアが高かった。

SOFAスコア中央値は、マルトフィリア肺炎群で7.5、他菌による肺炎群で3.0であった。

また、マルトフィリア肺炎8例中7例に、悪性腫瘍、抗緑膿菌βラクタム薬の先行投与、ステロイド投与などの背景が認められた。

著者らは、マルトフィリアに対する治療を検討すべき状況として、以下を挙げている。

  1. 喀痰培養でマルトフィリアが優位に検出される
  2. 広域抗菌薬が先行投与されている
  3. 免疫不全・免疫抑制状態がある
  4. SOFAスコアが高い

この研究で重要なのは、「喀痰から検出された菌」と「実際に肺炎を引き起こしている菌」を区別していることだと思う。

マルトフィリアは気道に定着することもあり、喀痰培養が陽性だからといって、必ずしも治療対象になるわけではない。

では、健康な人の市中肺炎ではどうなのか?

実は、基礎疾患のない患者に発症したマルトフィリア市中肺炎の症例報告も存在する。

2018年に Respiratory Medicine Case Reports に掲載された報告では、基礎疾患のない男性が市中肺炎を発症した。

当初の経験的抗菌薬治療では改善せず、喀痰培養でマルトフィリアが検出された。

菌はST合剤とレボフロキサシンに感受性を示し、レボフロキサシンによる15日間の治療で改善した。

Geller M, et al. S. maltophilia pneumonia: A case report.

https://doi.org/10.1016/j.rmcr.2018.04.004

したがって、マルトフィリアは稀ではあるが、基礎疾患のない患者でも市中肺炎の原因菌になり得るということになる。

ただし、いずれも症例報告であり、一般的な市中肺炎で頻繁に遭遇する菌というわけではない。

そりゃ例外もあるわな

抗菌薬の選択も興味深い

マルトフィリアの特徴として、多くのβラクタム系抗菌薬に自然耐性を示すことが挙げられる。

特にメロペネムなどのカルバペネム系抗菌薬や、タゾバクタム・ピペラシリン(TAZ/PIPC)は、通常、有効性を期待しにくい。

一方、ST合剤(TMP-SMX)は古くから代表的な治療薬として使用されている。

ミノサイクリンやレボフロキサシンなども、感受性や感染症の重症度に応じて治療選択肢となる。

この点から考えると、喀痰培養でマルトフィリアが検出された肺炎患者が、TAZ/PIPCなどの抗菌薬のみで順調に改善した場合には、本当にマルトフィリアが原因菌だったのかを検討する必要がある。

逆に、通常の抗菌薬で改善せず、マルトフィリアが優位に検出されている場合には、この菌による感染症の可能性も考えるべきだろう。

最後に

今回調べてみて、マルトフィリアは必ずしも院内感染だけの菌ではなく、市中肺炎の原因菌にもなり得ることが分かった。

しかし、大阪市立大学の研究が示しているように、マルトフィリアが喀痰から検出されても、それだけで原因菌と断定することはできない。

とりわけ、入院時からマルトフィリアが検出されていたのか、それとも広域抗菌薬を投与した後に検出されたのかは、重要なポイントだと思う。

日常診療では、つい培養結果に目が向いてしまうが、抗菌薬の使用歴、基礎疾患、画像所見、臨床経過を合わせて判断することが大切である。

「マルトフィリアが出たから治療する」のではなく、「マルトフィリアが本当に肺炎を起こしているのか」を考える。

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