ヘルペスウイルスについて勉強していると、必ず出てくるのが「再活性化」という言葉。
単純ヘルペスウイルス(HSV)による口唇ヘルペスや、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)による帯状疱疹は、再活性化によって発症することが知られている。
では、そもそも再活性化とは何なのだろうか。
一般的には「体内に潜伏していたウイルスが、免疫力の低下によって再び活動すること」と説明される。
確かに間違いではない。しかし、よく考えてみると不思議な話である。
ウイルスは生き物ですらないのに、どうやって何十年も潜伏し、突然活動を再開するのだろうか。
今回は、このヘルペスウイルスの再活性化について考えてみたい。
そもそも潜伏感染とは何なのか?
ヘルペスウイルスの最大の特徴の一つは、一度感染すると、体内から完全には排除されず、長期間にわたって残り続けることである。
例えば、HSVは皮膚や粘膜から感染すると、知覚神経を逆行性に移動して神経節に到達する。
そして、神経細胞の核内にウイルスDNAを残す。
このとき重要なのは、ウイルスが常に増殖しているわけではないということである。
通常のウイルス感染では、ウイルスが細胞内で増殖し、新しいウイルス粒子を産生する。
ところが潜伏感染では、ウイルスDNAは存在するものの、増殖に必要な遺伝子の発現が強く抑制され、感染性のウイルス粒子は基本的に産生されない。
つまり、ウイルスそのものが眠っているというより、ウイルスの設計図であるDNAが、細胞内でほとんど使われていない状態と言える。
ウイルスDNAはどうやって眠っているのか?
ここで登場するのが、エピジェネティクスという概念である。
HSVのDNAは、神経細胞の核内で主に環状のDNA(エピソーム)として存在している。
そして、このDNAにはヒストンと呼ばれるタンパク質が結合している。
ヒストンはDNAを収納する役割を持つが、それだけではない。
ヒストンの化学修飾によって、DNAに書かれた遺伝情報が読み取られやすくなったり、読み取られにくくなったりする。
潜伏感染しているHSVでは、ウイルスの増殖に必要な遺伝子が、こうした仕組みによって抑制されている。
なるほど、DNAは存在しているが、増殖プログラムが実行されないように制御されているのである。
これが潜伏感染の分子生物学的な実態に近い。
では、何が再活性化のスイッチを入れるのか?
ヘルペスの再活性化は、一般的に疲労、発熱、精神的ストレス、紫外線、免疫抑制などを契機に起こるとされる。
しかし、これらの刺激が直接ウイルスを目覚めさせるわけではないらしい
少なくともHSVでは、神経細胞自体のストレス応答が重要な役割を果たしていると考えられている。
その一つが、JNK(c-Jun N-terminal kinase)と呼ばれる細胞内シグナル伝達経路である。
細胞にストレスが加わるとJNK経路が活性化され、ウイルスDNAに結合しているヒストンの状態が変化する。
その結果、これまで抑制されていたウイルス遺伝子の転写が再開されることがある。
すると、ウイルスの増殖に必要なタンパク質が作られ、ウイルスDNAの複製や新たなウイルス粒子の産生へと進んでいく。
神経細胞内で抑えられていたウイルス遺伝子の発現が、何らかの刺激によって再び開始される現象こそ再活性化なのである
免疫力が正常でも再活性化するのはなぜ?
ヘルペスの再発は、免疫不全の患者だけで起こるわけではない。
健康な人でも、口唇ヘルペスを繰り返すことがある。
なんでや?
これは、再活性化の開始と、実際に症状が出ることが必ずしも同じではないからである。
ウイルスの遺伝子発現が再開しても、宿主の免疫応答によって増殖が抑え込まれれば、臨床症状が現れないこともある・・・
逆に、局所での免疫制御が十分に働かなければ、ウイルスが増殖し、皮膚や粘膜に病変を形成する。
したがって、再活性化が起きたからといって、必ずしも全身の免疫力が低下しているとは限らない。
ウイルスが再活性化することと、それが臨床的な病気になることは、分けて考える必要がある。
ややこしいのよ
帯状疱疹も同じ仕組みなのか?
水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)も、HSVと同様に神経節に潜伏する。
初感染では水痘を発症するが、その後もVZVは知覚神経節に残る。
そして、何年、何十年も経過してから再活性化すると、帯状疱疹を発症することがある。
HSVは比較的頻繁に再活性化し、口唇ヘルペスなどを繰り返すことがある。
一方、VZVは加齢や細胞性免疫の低下などと関連して再活性化し、帯状疱疹を引き起こす。
同じヘルペスウイルスでも、潜伏や再活性化の仕組みが完全に共通しているわけではないのである。
それなら、なぜヘルペスウイルスは排除できないのか?
アシクロビルなどの抗ヘルペスウイルス薬は、ウイルスDNAの複製を阻害することで効果を発揮する。
しかし、潜伏感染中のウイルスは、基本的にDNAを活発に複製していない。
そのため、抗ウイルス薬によって増殖中のウイルスを抑えることはできても、神経細胞内に残っている潜伏ウイルスDNAそのものを除去することは難しい。
これが、抗ウイルス薬で症状を改善できても、潜伏感染を根治できない大きな理由である。
現在では、ウイルスDNAの遺伝子発現を制御するエピジェネティックな機構を標的とした治療研究も進められているらしい
しかし、潜伏しているウイルスを安全かつ確実に排除する治療法は、まだ確立されていない。
結局、再活性化とは何なのか?
ウイルスDNAは細胞内に残り、その遺伝子発現は長期間にわたって抑制されている。
しかし、細胞内の環境が変化すると、その抑制が解除され、ウイルスの増殖プログラムが再び動き始めることがある。
そして、実際に病気として発症するかどうかは、ウイルスの増殖と宿主の免疫制御のバランスによって決まる。
ウイルスは自らエネルギーを作り出すことも、単独で増殖することもできない。
それにもかかわらず、宿主細胞の中に遺伝情報を残し、長期間にわたって存在し続けることができる。
そして、条件が整えば、再び増殖を開始する。
ヘルペスの再活性化とは、眠っていたウイルスが目覚めるというより、宿主細胞の中で封印されていたウイルスの遺伝情報が、再び読み取られるようになる現象なのだと思う。
そう考えると、「再活性化」という何気なく使っている言葉にも、実は非常に奥深い分子生物学的な仕組みが隠されているのである。
不思議
参考文献
- Mechanisms of HSV gene regulation during latency and reactivation. Virology. 2024. https://doi.org/10.1016/j.virol.2024.110324
- The opportunities and challenges of epigenetic approaches to manage herpes simplex infections. 2024. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11634640/
- Vistas in Signaling Pathways Implicated in HSV-1 Reactivation. 2024. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11594712/
- CDC. Chapter 23: Zoster. https://www.cdc.gov/pinkbook/hcp/table-of-contents/chapter-23-zoster.html


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