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意識消失の鑑別。これは何年経っても難しいです。
救急外来で来た時には症状がないことは大半です。
家族や本人の話、その時の状況からどちらかを推測することになります。
初回なら正直どちらなのか、さらにいうとどこまで精査をすべきか悩みます。
脳波の検査をするのか、不整脈の検査をするのか。何もなしで帰宅できるのか?
脚色した症例を提示しながら考えてみます。
症例
23歳男性の大学生、特に基礎疾患はない。
大学は休みであった。同居している母親が帰宅すると自宅で倒れているのを発見した。
朝にも突然倒れたとのこと。現在は覚醒しているが、頭が痛い。尿失禁はない
救急要請となり救急受診となった。
診察上は脈拍、呼吸数や体温の異常はない。外傷痕は左肘に擦過傷あり。
意思疎通は可能で、四肢の動きも問題なし。
覚えている範囲では胸痛や動悸はない。
次どうする?
この時点でどうするか? 症状がないので帰宅も、超強気ならありかもしれません。
しかし、病気によれば帰宅後に急変する可能性もあります。
何の検査をしますか?
大まかな鑑別としては、意識障害ではなく、意識消失であり痙攣か失神かになるでしょう。
痙攣なら、必要な検査は脳波、MRI等になります。救急ならまずCTを取っても良いかもしれません。
想定される疾患は、てんかんが最もあり得ますが、頭蓋内出血、頭蓋内腫瘍なども否定すべきです。
発熱があると髄膜炎なども可能性には入ってくるかもしれません。
また脳炎や脳症も想定すべきでしょう。
失神を考慮するなら、心原性、迷走神経反射など自律神経系の異常です。
心原性を疑いだと心エコーや心電図は必須でしょうか。
電解質異常が隠れており不整脈が惹起されることもありますので、血液検査も有用かもしれません。
救急外来ですので、できる検査は限られています。
ちなみに頭部CT、心電図、心エコー、血液検査、全て異常認めませんでした。
方針は?
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一番大事なのは致死的疾患の否定です。
致死的なのは不整脈や心原性のものでしょう。
本人は若年で比較的元気、心電図、心エコーも問題ないなら可能性は低そうです。
てんかんであったとして、再度症状が出ても水場でなければ間に合うことが多いです。
今回はてんかんの可能性は残るので、後日MRIと脳波の撮影を行う方針とし帰宅となりました。
が、1週間後に再度自宅で意識消失を認め救急受診し入院となりました。
予定していた脳波とMRIを撮りました、痙攣を示唆する有意な所見はありませんでした。
念のために持続脳波を装着しましたが、明らかな痙攣を疑う所見は認めませんでした。
入院後各種検査でも問題なく退院予定となリましたが、今回は再度眼球上転を伴う痙攣を認めました。
退院前で持続脳波はもうすでには外しており、脳波所見はわかりません。
この時のモニター心電図では、明らかな不整脈もなく、頻脈でもありません。
診察したところ、呼吸、脈とも落ちつていますが、反応に呼びかけはありません。
しかし、Arm drop testが陽性でした・・・・
診断
Arm drop testとは、意識障害がある方の顔の上に、患者の上肢を持ち上げて離すテストです。
意識障害があれば、顔面の上で離した手が顔面に直撃します。
意識障害はなくとも、麻痺でも同様の症状はあります。これは陰性。
意識障害がない場合、顔面を回避して腕が落ちることがあります。これは陽性。
要するに、意識はあり、自分の意思で顔面を回避している可能性があると言うことです。
診断は、心因性非てんかん発作(psychogenic non-epileptic seizures)PNESになります。
本人の話を聞くと大学のサークルでトラブルになっており精神的に弱っていたそうです。
実行はしていないものの、自殺企図もあったようです。
精神科医師に相談して、以降症状は出ておりません。
arm drop testだけでの判断は危険とは思いますが、脳波異常や画像異常もなく、心原性も否定的であったので、おそらくはPNESと言えると思われます。
精神的なストレス、精神科受診以降の症状消失を考えても矛盾しなさそうです。
PNES とは
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心因性非てんかん発作 (PNES) は、てんかん発作または失神発作に似た非てんかん性の発作です。
内的または外的要因に対する不随意の行動的反応の結果、痙攣などを起こします。
一過性に運動,感覚や正常な機能が失われることもあります。
具体的には精神的トラウマ、頭部外傷,身体的合併症が原因になり得ます。
発症年齢としては、思春期から若年成人期に最も好発しますが、若年から高齢者を含むすべての年齢層で見られる可能性があるとされます。
PNESはてんかん専門医においても、鑑別に迷うものまで臨床症状が幅広く,成人PNES の場合は初発発作から診断確定まで平均 7 年,小児の場合は 3 年かかるといわれている。
Reuber, M., Fernández, G., Bauer, J., et al.:Diag- nostic delay in psychogenic nonepileptic siezures. Neurol- ogy, 58(3);493‒495, 2002
まとめ
意識消失の鑑別アプローチを記載しました。
今回の症例は、精神的な影響からくる発作でした。
診断名はPNES、以前はヒステリーと言われていた現象です。
この診断は非常に難しく、頭蓋内異常や心原性がないと判断しなければなりません。
PNESと判断していて、実は心原性が原因にあり、致死的になったら困りますからね。
改めて意識消失の鑑別は難しいと思いました。
今回はPNESによる痙攣が答えになります。
以上、参考になれば幸いです。
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