「半年」「1年」と言われる理由を、ちゃんと考えてみる
病院で「免疫グロブリンを使ったので、しばらくワクチンは空けてください」
と言われることがある。
ところが実際には、
- 半年と言われることもある
- 11か月と言われることもある
- 1年と言われることもある
病院ごとに言うことが違うように聞こえるかもしれない
量にもよるが、私は生ワクチンなら半年は開けるって思っている
理由?
本に書いていたからである。明確なロジックの言及はなかった気がする
正解はなんなのか・・・?

そもそも免疫グロブリンとは何か
免疫グロブリン(IVIG)は、多くの健康な人の血液から集めた完成済みの抗体(IgG)を、そのまま体に入れる治療である
これは
- 体に覚えさせるものではない
- 将来に備えるものでもない
「今この瞬間を守る」ための治療でありワクチンとは、目的が真逆である。
ワクチンは免疫を「覚えさせる」ためのもの
ワクチンは免疫に敵の情報を見せて、記憶を作るためのものである
不活化ワクチンと生ワクチンの2つが存在する
不活化ワクチン
- 病原体は死んでいる、または一部だけ
- 体の中で増えない
免疫は抗原を見て学習する。死んでいても抗原提示は起こり、抗体は作られる
つまり、免疫グロブリンが体内にあっても、基本的に問題は起きにくい。
これが「不活化ワクチンは原則OK」と言われる理由である
だいたい2週間くらい開けると思うけども。
生ワクチン
- 弱毒化した“生きた”病原体
- 体の中で少し増えることが前提
量はごく少ないため、増えないと意味がない。
免疫グロブリンが生ワクチンを邪魔する理由
免疫グロブリンには、麻疹・風疹・水痘などに対する抗体がすでに含まれている。
この状態で生ワクチンを打つと、ワクチンが増える前に抗体で捕まって中和される
結果として、打ったのに、免疫がつかない。
これが「生ワクチンは空けましょう」と言われる本当の理由だ。
では、どれくらい空ければいいのか?
ここが一番モヤっとするところである
判断の拠り所になっているのがおそらくIgGの半減期という考え方だ。
多分そうであると確信している
IgG半減期というロジック
IgGの半減期は およそ7〜23日
(よく使われる代表値は約21日)、サブクラスによって違うらしい
半減期とは、「体内の量が半分になるまでの時間」
IgGの減り方は直線ではない
仮に量を100とすると、
- 1回半減:50
- 2回:25
- 3回:12.5
- 4回:6.25
- 5回:3
- 6回:1.5
- 7回:0.8
6〜7半減期で“かなり減る”ことがわかる
半減期を 21日 として7半減期で計算すると、
21日 × 7 = 約147日(約5か月)
つまり「半年」 という数字は、
IgG半減期だけを使って計算した、理論的な下限に近いと思われる。
もし半減期を七日とすると約2ヶ月くらいに縮まる、たまに3ヶ月とか聞くのも理論的には正しいのかもしれない・・・
この意味で、「半年」という数字自体は決してノリで決めたわけではなさそうである
今まで、なんとなく半年と思っていた
多分このロジックと思うが、みなさん知っているのだろうか?
それでも半年で済まされない理由
問題はIgGが減ったかではなく、生ワクチンで重要なのは、 ごく少量の抗体でも邪魔にならないかという点である
① 初期免疫グロブリン量が多すぎる
疾患によって投与量はまちまちである、大量の免疫グロブリンは、スタート量が桁違い。
半分、4分の1になってもまだ十分多い可能性がある
② 半減期には個人差がある
- 代謝
- 炎症
- 年齢
によって、IgGの減り方は人ごとに違う
③ ワクチンの失敗は後から分からない
生ワクチンは効いたかどうか、見た目では分からない
失敗しても気づけない
だから期間は「安全側」に倒される
理論的には半年で足りる人も多いかもしれないが、失敗を出さないとするとある程度長くすることは許容される。
その結果として、
- 理屈の数字:半年
- 現場の数字:11か月〜1年
が使われると推測する
1年は失敗しないための数字
流行時に「ルールを破る」のはアリか?
ありやで
と大きな声では言えないが、メリットとデメリットを考えると場合によってはありと思う
麻疹などの流行時には、リスク構造が逆転する。
- 平時のリスク
ワクチンが無効になるかもしれない - 流行時のリスク
自然感染するかもしれない
生ワクチンを早めに打ったら
免疫グロブリン後、まだ抗体が残っている時期に生ワクチンを打つと、
- 効かない可能性はある
- でも一部でも免疫がつく可能性もある
一方、打たなければ 完全に無防備であり、流行時にはこの差が無視できなくなる。
ルールの例外規定かもしれないが リスクの比較衡量に基づく判断とも言える
もともとのルール自体が
「ワクチンを無駄にしないため」のものであり、「絶対に守らなければならない掟」ではないし、破ったからと言って重症化するわけでもない、ので現場判断では時に早めに打つことも許容されると思われる
でも基本ルールは守ろう
まとめ
- 不活化ワクチン
- 体内で増えない
- 抗原提示できる
- 原則、空けなくていい
- 生ワクチン
- 増える前提
- 抗体が多いと無効
- だから空ける
免疫グロブリン後のワクチン接種を開ける期間は、おそらくIgGの半減期を考えての期間と思われる
それは初期量や半減期の個人差によって左右されるので、安全にするには伸ばした方が良い
平時はルールを守った方がいいが、期間が早まったとしても、ある程度の免疫反応はあると思われる
少なくとも早めに打って体にめっちゃ悪影響というわけではない
流行時は、目的に立ち返って柔軟に考えることも必要かもしれない
以上参考になれば幸いです

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