たまたま新興国の医療者と話す機会を得た
「アレルギーなんてほとんど見たことがない」ということを、口を揃えていいます
かたや、日本では春になれば花粉症、子どもたちはアトピーや喘息
食物アレルギーも増加の一途である
私自身もアレルギー持ちである
しかしアフリカなどの国では、同じようなアレルギー疾患が圧倒的に少ない。
なぜ、これほど違いがあるのか?
私が学生の頃から衛生仮説はよく耳にしていたし、衛生仮説と思っていたのだが・・・

色々な仮説を考えてみようと思う
1. 衛生仮説 ― 「清潔すぎる社会」の代償
1989年、イギリスの疫学者デイヴィッド・ストラチャンが提唱した衛生仮説(Hygiene Hypothesis)は、この疑問に最初の答えを与えた。
幼少期に感染症や微生物に触れる機会が少ないほど、アレルギーを起こしやすくなる
感染や寄生虫などによる免疫刺激が少ないと、免疫系(特にTh1/Th2バランス)が偏り、IgEを介する過剰反応(アレルギー)を起こしやすくなる、という考え方です。
日本や欧米のように清潔な社会ほど、免疫の「訓練不足」になり、身近な花粉や食物に対しても過剰に反応してしまうというのです。
昨今の日本の衛生は見違えるほど綺麗になっています。
高度経済成長の時代の方が、環境汚染はバリバリであったはずなのに、(もちろん公害はあった)、今ほど食事アレルギーとかの報告はない
環境要因もわかるが、訓練とか関係なく、昔の排気ガスとかの方が、体には悪そうだが?
というのが自分の中の疑問点
2. 訓練免疫(Trained Immunity)― 衛生仮説を超える新しい理解
近年、「衛生仮説」では説明しきれない現象が見えてきた。
たとえば、感染が多くてもアレルギーを起こす人がいる一方、感染が少なくてもアレルギーがない人もいるという事実である
その背景にあるのが、オランダのNeteaらが提唱した訓練免疫(Trained Immunity)という概念です。
訓練免疫とは? 感染や微生物・食事・ワクチンなどの刺激によって、自然免疫細胞(マクロファージ・樹状細胞など)が再教育され、反応性が変わること。
従来の「獲得免疫(T・B細胞)」ではなく、自然免疫のエピジェネティックな記憶を意味します。
簡単にいうと、
「免疫細胞の中のスイッチ(遺伝子の働き方)が一度の経験で少し書き換えられ、次に似た刺激が来たときに素早く・適切に動けるようになる」
例えば、肺のマクロファージがウイルス感染の“記憶”を保持し、
アレルゲン誘発性喘息から宿主を守るという研究も報告されています
(Machiels et al., Nat Immunol, 2017)。
寄生虫と免疫寛容
アフリカ農村部では、幼少期から寄生虫(線虫など)への曝露が多い
寄生虫は宿主の免疫から逃れるために、IL-10やTGF-βといった免疫抑制性サイトカインを誘導します。
結果として、宿主側では免疫反応が抑制的になり、アレルギーのような過剰な炎症反応を起こしにくくなるのです。
これを「寄生虫による免疫教育」と考えると、
衛生仮説や訓練免疫と同じく、「免疫が刺激されて鍛えられている社会」と言えます。
寄生虫が誘導する免疫制御がアレルギー抑制に寄与していることは確かです。
しかし、全員が全員寄生虫おるわけではないと思うし、完全に益虫かわからん
が何らかの影響はあってもいいかもと思う
腸内細菌叢(Microbiota)と抗アレルギー作用
近年注目されているのが腸内細菌叢(gut microbiota)の役割です。
『Frontiers in Immunology』(Cheng et al., 2024)によると、
腸内の特定の菌群が訓練免疫を介してアレルギーを抑制する方向に免疫を再プログラムすることが示されています。
代表的な例は以下の通り:
- Coriobacteriia科(Coriobacteriales / Coriobacteriaceae):アレルギー性鼻炎に対して保護的に働く。
- Victivallaceae科:アレルギーリスクを上げる。
- フィンランドの13年追跡研究では、乳児期の腸内細菌叢構成がその後のアレルギー発症と強く関連していた。
これらの菌が産生する短鎖脂肪酸(酪酸など)は、
免疫細胞の遺伝子発現を変え、免疫寛容(immune tolerance)を促進します。
プロバイオティクス(Lactobacillus casei, L. rhamnosus, L. gasseriなど)が
スギ花粉症やアトピーの症状を軽減した臨床研究も報告されています。
腸内細菌叢はまさに免疫のもう一つの機関といえるでしょう
調べてもこの腸内細菌叢説はかなり可能性があるのではと個人的に思っている
衛生仮説の一部分かもしれないが、食生活や食事環境などは違えば腸内細菌叢は大きく変わってくる
免疫反応例えばIgEの反応なんて、個体差なんて知れてると思うからである
アフリカと先進国の腸内細菌叢の違い
C. De Filippoら(PNAS, 2010)は、イタリアの子どもとブルキナファソの農村の子どもの腸内細菌を比較しました。
結果は驚くほど明確である。
| 特徴 | アフリカ農村部 | 欧米・日本など先進国 |
| 微生物多様性 | 非常に高い | 比較的低い |
| 優勢菌種 | Prevotella属・Spirochaetaceae・Succinivibrioなど | Bacteroides属・Firmicutesなど |
| 食生活 | 高繊維・低脂肪(豆・穀物・発酵食品) | 高脂肪・加工食品中心 |
| 免疫影響 | 酪酸など短鎖脂肪酸が豊富 → 免疫寛容促進 | 炎症性代謝物が多い傾向 |
アフリカの子どもたちは「腸内で免疫が訓練されている」可能性が高い
これがアレルギーの少なさの大きな要因になっていると考えられます。
腸内細菌叢はかなりの個体差があると思った
6. 都市化と再び増えるアレルギー
しかし、アフリカでも都市化が進む地域(ナイロビ、ケープタウンなど)では、
アレルギー疾患が急増しています。
清潔志向・加工食品・抗生物質の多用・屋内生活などにより、
微生物や寄生虫との接触が減り、腸内多様性が失われているからかも知れない
7. まとめ ― 免疫は「刺激」で育つ
| 理論 | 主な刺激 | 免疫への影響 |
| 衛生仮説 | 感染・微生物 | 感染不足でTh2過剰反応 |
| 訓練免疫 | 多様な抗原刺激 | 自然免疫の再教育・免疫寛容 |
| 寄生虫仮説 | 線虫・原虫 | IL-10, TGF-β誘導で過剰反応抑制 |
| 腸内細菌仮説 | 腸内微生物代謝産物 | 短鎖脂肪酸が免疫制御を強化 |
新興国における「アレルギーが少ない社会」とは、
まさに免疫が多様な刺激を受け、適切に鍛えられている社会からかも知れない。
清潔さと安全を保ちながら、
いかに「免疫の教育機会」を保つかそれが現代社会の課題である
上の4つの説はバラバラというわけではなくて、かなり密接に関わってるなと思う
腸内細菌叢とアレルギーの関係には他の報告もあって、フィンランドのランダム化比較試験では、
妊婦と新生児に Lactobacillus rhamnosus GG を投与したところ、
子どものアトピー性皮膚炎発症率が半減した(Kalliomäki et al., Lancet, 2001)。
これからも毎日ヨーグルト食べよ
全世界の衛生が良くなっていけばいくほど、アレルギー患者は増えていくかもしれない
以上参考になれば幸いです。
参考文献
- Cheng M, et al. New progress in pediatric allergic rhinitis. Front Immunol. 2024;15:1452410.
- A gammaherpesvirus provides protection against allergic asthma by inducing the replacement of resident alveolar macrophages with regulatory monocytes (Machiels B et al., Nat Immunol. 2017;18:1310‑1320)
- Jin Q, et al. Front Immunol. 2023;14:1121273.
- Kallio S, et al. Microbiol Spectr. 2024;12:e413523.
- De Filippo C, et al. Impact of diet in shaping gut microbiota revealed by a comparative study in children from Europe and rural Africa. PNAS. 2010;107(33):14691–14696.
- Senghor B, Sokhna C, Ruimy R, Lagier J-C.
Gut microbiota diversity according to dietary habits and geographical origin of French and Senegalese adults.

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