最近は投資関連が気になっていて、医学論文を読むことを疎かにしていたので、本業もしっかりしたいと思います
GmPcide PS757なる抗菌薬の論文を読みました
新しいクラスの抗菌薬らしいです
今までの抗菌薬と耐性菌についてまとめて、GmPcide PS757について記載したいと思います
抗菌薬のクラス
抗菌薬のクラス
抗菌薬をその作用機序、化学構造、標的とする細菌の種類に基づいて分類したものです。それぞれのクラスには特徴的な働き方があり、特定の病原菌に対して効果を発揮します
ざっくり解説します
1. β-ラクタム系抗菌薬
- 例:ペニシリン、セファロスポリン、カルバペネム
- 作用機序:細胞壁合成を阻害(ペプチドグリカンの架橋形成を阻害)
- 特徴:
- グラム陽性菌とグラム陰性菌の両方に有効
- 溶連菌、肺炎球菌、淋菌などの治療に使用
- β-ラクタマーゼ産生菌に対する耐性菌が問題となることがある
2. マクロライド系抗菌薬
- 例:エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン
- 作用機序:リボソーム50Sサブユニットに結合し、タンパク質合成を阻害
- 特徴:
- グラム陽性菌(溶連菌、肺炎球菌)および一部のグラム陰性菌に有効
- 最近はマイコプラズマが流行しているので処方も多いのでは
3. アミノグリコシド系抗菌薬
- 例:ゲンタマイシン、アミカシン、ストレプトマイシン
- 作用機序:リボソーム30Sサブユニットに結合し、タンパク質合成を阻害
- 特徴:
- 主にグラム陰性菌に有効
- 腎毒性や聴神経毒性があるため、慎重に使用
4. フルオロキノロン系抗菌薬
- 例:シプロフロキサシン、レボフロキサシン、モキシフロキサシン
- 作用機序:DNAジャイレース(トポイソメラーゼⅡ)を阻害し、DNA複製を阻害
- 特徴:
- 広範囲のグラム陽性菌とグラム陰性菌に有効
- 特に尿路感染症や呼吸器感染症に使用
5. グリコペプチド系抗菌薬
- 例:バンコマイシン、テイコプラニン
- 作用機序:細胞壁ペプチドグリカンの合成を阻害
- 特徴:
- 主にグラム陽性菌に有効
- MRSAやクロストリジウム感染症など、耐性菌の治療に用いられる
6. テトラサイクリン系抗菌薬
- 例:テトラサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン
- 作用機序:リボソーム30Sサブユニットに結合し、タンパク質合成を阻害
- 特徴:
- グラム陽性菌、グラム陰性菌、リケッチア、クラミジアに有効
- 光線過敏症や骨形成への影響に注意
7. リポペプチド系抗菌薬
- 例:ダプトマイシン
- 作用機序:細胞膜の脱分極を誘導し、細胞膜機能を阻害
- 特徴:
- グラム陽性菌(MRSA、VRE)に有効
- 主に皮膚感染症や敗血症に使用
8. オキサゾリジノン系抗菌薬
- 例:リネゾリド
- 作用機序:リボソーム50Sサブユニットに結合し、タンパク質合成を阻害
- 特徴:
- グラム陽性菌(MRSA、VRE)に対する治療薬
- 長期間使用時に骨髄抑制などの副作用に注意
9. サルファ薬(スルホンアミド系)
- 例:スルファメトキサゾール、トリメトプリム(併用してST合剤)
- 作用機序:葉酸合成経路を阻害
- 特徴:
- 呼吸器感染症や尿路感染症に使用
- 一部のグラム陽性菌とグラム陰性菌に有効
最近作られた薬で臨床でも見るのは、オキサゾリジノン系(リネゾリド)やリポペプチド系(ダプトマイシン)でしょうか
新規抗菌薬クラスとして大きく注目されてきました
問題になっている耐性菌は?
1. メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA, Methicillin-resistant Staphylococcus aureus)
- 問題点:
- グラム陽性菌で、従来のβ-ラクタム系抗菌薬(例:メチシリン、オキサシリン)が効かない。
- 医療関連感染症(HAI, Healthcare-associated Infections)の主な原因菌。
- 主な感染部位:
- 皮膚・軟部組織感染症、肺炎、血流感染症。
- 治療薬:
- バンコマイシン、ダプトマイシン、リネゾリドなど。
- 特に問題となる状況:
- 手術後感染や集中治療室(ICU)での感染。
2. バンコマイシン耐性腸球菌(VRE, Vancomycin-resistant Enterococcus)
- 問題点:
- グラム陽性菌で、バンコマイシンなどのグリコペプチド系抗菌薬が効かない。
- 特にEnterococcus faecalisやEnterococcus faeciumが問題。
- 主な感染部位:
- 尿路感染症、腹腔内感染症、敗血症。
- 治療薬:
- ダプトマイシン、リネゾリド、テジゾリド。
- 特に問題となる状況:
- 免疫抑制患者や長期入院患者の感染。
3. 多剤耐性緑膿菌(MDRP, Multidrug-resistant Pseudomonas aeruginosa)
- 問題点:
- グラム陰性菌で、複数の抗菌薬(例:カルバペネム、フルオロキノロン)に耐性を示す。
- 強力なバイオフィルム形成能力で慢性感染症を引き起こす。
- 主な感染部位:
- 肺炎、創傷感染症、尿路感染症。
- 治療薬:
- セフタジジム・アビバクタム。(日本でも使用できる)
- 特に問題となる状況:
- 医療機器(カテーテル、人工呼吸器)による感染。
4. カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE, Carbapenem-resistant Enterobacteriaceae)
- 問題点:
- グラム陰性菌で、カルバペネム系抗菌薬が効かない。
- 大腸菌(E. coli)や肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)が主な原因菌。
- β-ラクタマーゼ(例:KPC、NDM-1)を産生する。
- 主な感染部位:
- 血流感染症、尿路感染症、肺炎。
- 治療薬:
- メロペネム・バボルバクタム、セフタジジム・アビバクタム。
- 特に問題となる状況:
- ICUや長期ケア施設での集団感染。
5. 多剤耐性結核菌(MDR-TB, Multidrug-resistant Mycobacterium tuberculosis)
- 問題点:
- リファンピシンとイソニアジドという結核治療の主要薬に耐性。
- 治療が非常に困難で、治療期間が長い。
- 主な感染部位:
- 肺(主に結核)。
- 治療薬:
- ベダキリン、デラマニド、リネゾリド。
- ベダキリン、デラマニドは聞いたことなかったです
- 特に問題となる状況:
- 世界的に結核患者が多い地域(インド、ロシア、南アフリカなど)。
6. マクロライド耐性肺炎球菌(Macrolide-resistant Streptococcus pneumoniae)
- 問題点:
- 呼吸器感染症で一般的に使われるマクロライド系抗菌薬が効かない。
- 主な感染部位:
- 肺炎、中耳炎、副鼻腔炎。
- 治療薬:
- セフトリアキソン、リネゾリド。
- 特に問題となる状況:
- 幼児や高齢者の感染症。
7. グリコペプチド耐性化膿連鎖球菌
- 問題点:
- 溶連菌は一般的にはペニシリン感受性だが、一部でグリコペプチド耐性が報告されている。
- 主な感染部位:
- 皮膚感染症、咽頭炎。
- 治療薬:
- β-ラクタム系抗菌薬が通常有効。
MRSAは比較的多く遭遇すると思う
OTCが多い国は耐性菌が多いのか?
OTC(Over-The-Counter)薬、つまり処方箋なしで購入できる抗菌薬の利用が多い国では、耐性菌の増加が深刻な問題になりやすいです。
これに対し、日本では抗菌薬の利用が比較的慎重であるため、耐性菌の問題は他国ほど深刻ではありません。
ただし、耐性菌の増加傾向は見られています
OTC抗菌薬が多い国と耐性菌の状況(chat GPT調べ)
- インド、パキスタン、バングラデシュ:
- 抗菌薬がOTCとして広く利用されており、多剤耐性菌(MDR)の発生が深刻。
- 例:カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)や多剤耐性結核菌(MDR-TB)。
- 東南アジア(タイ、フィリピン、インドネシア):
- 病院外での抗菌薬使用率が高く、耐性菌の割合も高い。
- 特にマクロライド耐性肺炎球菌が問題視されている。
- アフリカ(ナイジェリア、ケニアなど):
- 自己治療のために抗菌薬が多用され、多剤耐性菌が拡大。
- 南米(ブラジル、メキシコ):
- 一部の国では規制が緩く、抗菌薬の誤用が広がり、耐性菌の増加につながっている。
日本の耐性菌状況
日本では、OTCの抗菌薬は販売されていないため、耐性菌の問題は比較的抑制されています。
しかし、抗菌薬耐性(AMR)に関連する課題はあって
- 耐性菌の現状:
- MRSA、VRE、多剤耐性緑膿菌(MDRP)などが医療関連感染症で問題。
- マクロライド耐性肺炎球菌が増加中。
- 市中感染症では薬剤耐性淋菌やピロリ菌耐性が懸念。
- 抗菌薬使用の特徴:
- 風邪や軽度の感染症に対して抗菌薬が処方されるケースはまだ存在するが、減少傾向。
- 取り組み:
- 厚生労働省が「抗微生物薬耐性(AMR)アクションプラン」を策定(2016年)。
- 医療機関での抗菌薬適正使用支援や市民啓発活動が進められている。
今後の課題、問題点としては旅行客多いですので、OTC抗菌薬が多い国からの渡航者や輸入食品を通じた耐性菌の拡散リスクでしょうか
GmPcide PS757の特長と効果
さて本題ですが、
Dihydrothiazolo ring-fused 2-pyridone antimicrobial compounds treat Streptococcus pyogenes skin and soft tissue infectionを読みました
GmPcide PS757は、ペプチドミメティックな環状構造を持つ「ジヒドロチアゾロリング融合2-ピリドン」を基盤とした新しい抗菌薬の一種です
ジヒドロチアゾロリング融合2-ピリドンって言われれもピンとこないです
以下の特長があります
広範な抗菌活性: GmPcide PS757は、多剤耐性グラム陽性菌に対して強力な殺菌効果を持ちます。特に溶連菌に対する最小阻止濃度(MIC)は0.78 µMと低く、高い殺菌効果を示します。
バイオフィルム形成阻害: PS757は、バイオフィルムの初期形成から成熟段階、さらには完全に成熟したバイオフィルムまで、すべての段階での抑制が可能です。この特性により、溶連菌の持続的な感染を防ぐことができます。
炎症軽減と組織修復の促進: マウスモデルでの実験では、GmPcide PS757を使用することで、感染部位の炎症や組織損傷が軽減され、治癒速度が大幅に向上しました。
抗バイオレンス効果: PS757は、溶連菌の主要な毒性因子であるMタンパク質とSpeBシステインプロテアーゼの発現を抑制します。この効果により、組織損傷を軽減し、回復を促進します。
バイオフィルム形成阻害を推しているようです
GmPcide PS757の広範な抗菌活性
- バンコマイシン耐性腸球菌 (Enterococcus faecalis)
- メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA, Methicillin-resistant Staphylococcus aureus)
- 多剤耐性肺炎球菌 (Streptococcus pneumoniae)
- クリンダマイシン耐性B群連鎖球菌 (Streptococcus agalactiae)
- エリスロマイシン耐性化膿連鎖球菌 (Streptococcus pyogenes)
結構有効です
人間への適用可能性や安全性の評価が次のステップ
まとめ
新しいクラスの抗菌薬ときくとワクワクするのですが
そこまで多剤耐性のグラム陰性菌にはよくなさそうで、主にグラム陽性球菌用
しかし耐性グラム陽性狙いなら、リネゾリドとダプトマイシンで良くない?
が感想
以降はそれを論じています
リネゾリドとダプトマイシンの限界
リネゾリド(オキサゾリジノン系)
副作用
- 長期使用で骨髄抑制(特に血小板減少症)、末梢神経障害、視神経障害が発生するリスクが高い。
- 耐性の出現:
- リネゾリド耐性菌(LRSA, Linezolid-resistant Staphylococcus aureus)が報告されている。
- 抗バイオフィルム効果が限定的:
- 成熟したバイオフィルムへの効果が乏しい。
ダプトマイシン(リポペプチド系)
短所:
使用制限:肺炎への適用が不可能(肺サーファクタントによる薬剤不活化)。
- 副作用:筋障害(横紋筋融解症)のリスクがあり、クレアチンキナーゼ(CK)値の定期的なモニタリングが必要
- コストが高い:長期治療が必要な場合、経済的な負担が増大。
- 耐性の出現:ダプトマイシン耐性腸球菌(DRE)が報告されている。
GmPcide PS757の利点
GmPcide PS757は、リネゾリドやダプトマイシンの限界を補完し、以下の点で差別化されています:
(1) 新しい作用機序
- PS757は、細胞壁の異常や核様体の凝縮を引き起こす独自のメカニズムを持つ。
- 抗毒性因子効果(SpeBやMタンパク質の抑制)により、感染症の症状軽減に寄与。
- リネゾリドやダプトマイシンとは異なる標的を持つため、耐性菌に対する有効性が期待される。
(2) 抗バイオフィルム効果
- 成熟したバイオフィルムを破壊し、静止期の細菌にも殺菌効果を発揮。
- リネゾリドやダプトマイシンでは対応が難しい慢性化した感染症や再発リスクのある症例に適用可能。
(3) 副作用リスクの軽減
- 現時点での研究では、骨髄抑制や筋障害などのリスクは報告されていない。
- PS757の構造上、長期使用が比較的安全である可能性が示唆されている。
(4) 耐性菌への対抗
- PS757は既存の抗菌薬とは異なる作用機序を持つため、リネゾリドやダプトマイシンに耐性を持つ菌(LRSA、DREなど)にも効果が期待される。
副作用も少ないならアリかもしれないですね。
個人的にはバンコマイシンより気軽に使えるMRSA用の抗菌薬があればと思いますので、これがバンコマイシンより安い薬価であれば面白いと感じます
以上参考になれば幸いです
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