最近、ブルガダ症候群に対して思春期に増加する女性ホルモンが抑制的に働く可能性があるという研究が日本から発表されました
これまでブルガダ症候群は男性に多くみられる疾患であり、その背景には性ホルモンの影響があると考えられていました
テストステロンが病態を悪化させる可能性については、多くの研究で指摘されてきておりますが、女性ホルモンがこの疾患に対して保護的に働く可能性があるとは非常に興味深い
ここ最近での医療ニュースの中では、個人的に一番気になっております
ブルガダ病は遺伝子異常も背景にありますが、突然変異もあるので、世の男性は全く他人事という訳にはいかないと思います
思春期を境にQTcの性差が生じることは、以前から知られており、男性ではテストステロンの影響でQTcが短縮し、逆にブルガダ症候群のリスクが増すと考えられている
一方、女性ではエストロゲンやプロゲステロンの影響によりQTcが維持され、ナトリウムチャネルの働きも保たれる可能性が示唆されております
もしかすると女性ホルモン投与でICD植え込み術を減らすことができる、そんな世界線も見えるのが画期的と考えます
ブルガダ症候群やらICDやら、ホルモンと心電図変化をまとめたいと思います

ブルガダ症候群について
遺伝性の致死性不整脈疾患であり、突然の心停止や心室細動(VF)を引き起こす可能性のある病態です
主に右脚ブロック様波形とV1〜V3のST上昇を特徴とする心電図変化がみられます。
1. 原因と病態
- 主な原因:
- SCN5A遺伝子変異(約20〜30%の患者に見られる)
- その他、遺伝子変異が確認されていない症例が多数存在。
- 病態生理:
- 右室流出路(RVOT)を中心としたナトリウムチャネル機能低下による活動電位異常、内向きナトリウム電流の減少からの一過性外向きカリウム電流(Ito)の増強 →新内膜外膜の電位差での ST上昇
2. 心電図(ECG)の特徴
ブルガダ型心電図(V1~V3誘導)
Type 1
- coved型ST上昇(2mm以上)
- T波が陰転
Type 2
- saddle-back型ST上昇(2mm以上)
- T波陽性
Type 3(軽度ST上昇):
- ST上昇が1mm未満
- 診断基準には含まれない
3. 誘発因子
Brugada症候群の心電図変化や不整脈は、以下の因子で悪化することがある。
- 発熱(熱がナトリウムチャネルを不安定化)
- 特定の薬剤
- Naチャネル遮断薬
- 三環系抗うつ薬
- アルコール・コカイン
- 自律神経の影響
発熱すると、心電図がブルガダ波形になるという報告もあります
4. 臨床的特徴
- 症状
- 突然の失神、夜間の不整脈発作
- 突然死のリスク
- 一部の患者は無症状で発見される(心電図変化のみ)
- 性差
- 男性に多い(男女比約8:1)
- テストステロンが病態を悪化させる可能性
- エストロゲンが保護的に作用する可能性(最近の研究で示唆)
治療・管理
心室細動(VF)発作時:電気的除細動
長期管理
- 高リスク患者(VF発作歴あり):
- 植込み型除細動器(ICD)が第一選択
- 低リスク患者:
- 定期的なフォローアップ
- リスク因子の回避
- 薬物治療(ICDが困難な場合)
- キニジン(Ito抑制作用)
VF既往は流石にICDを入れざるを得ないと思います
しかし、家族既往があり、自身もブルガダ心電図でハイリスクであるが無症状な人は躊躇すると思う
自分の立場で考えても、特に症状ない場合はかなり悩むと思う
ICDのメリットデメリットを考える
ICDのメリット
1. 突然死を防ぐ
- 最も大きなメリットは、致死的不整脈(心室細動など)からの生存率を飛躍的に向上させること。
- Brugada症候群やQT延長症候群、特発性VFなどの患者で、突然死を防ぐ唯一の確実な治療法。
2. 自動的な除細動機能
- ICDは心室細動(VF)や致死性心室頻拍(VT)を検出し、自動で電気ショック(DC)を送ることで心拍を正常化する。
- 意識を失っている場合でも作動するため、即時の救命が可能。
3. ペーシング機能
- ICDには抗頻拍ペーシング(ATP)機能があり、VT発作の際に低エネルギー刺激を行うことで、ショックを回避できる場合がある。
- 徐脈が合併している場合は、ペースメーカー機能付きICD(CRT-Dなど)を選択できる。
4. 生活の質(QOL)の向上
- ICDが作動することで、突然死の不安を軽減し、日常生活の安心感を向上させる。
- 心停止経験者が再発を恐れる心理的負担を軽減。
5. Brugada症候群では第一選択の治療
- 特にVFを発症した患者では、ICDが唯一の生存率改善手段とされている。
ICDのデメリット
1. 過剰ショック(不適切作動)
- ICDは致死性不整脈を感知して作動するが、誤って正常な心拍を不整脈と判断し、不要なショックを発生させることがある。
- 例:洞性頻脈、心房細動などに反応してショックが作動するケース。
- これが繰り返されると、精神的負担や痛みが大きい。
2. 植え込み手術のリスク
- 局所麻酔下で行われるが、手術リスクはゼロではない。
- 感染症リスク(特にデバイス関連感染)
- リード(電極線)の破損・移動による再手術の必要性
3. 生活上の制限
- MRIが制限される可能性(近年はMRI対応ICDもある)
- 強い磁場(空港のセキュリティ、電子レンジなど)への注意が必要
- 激しい運動や事故でICDリードが損傷するリスク
- バッテリー交換が必要(約5〜10年ごと)
4. 精神的負担
- ICD装着後、「いつ作動するか分からない」という心理的ストレスを感じる患者もいる
- ショックの痛み(電撃を受けるような強い衝撃)がトラウマになることも
救命という絶対的なメリットもありますが、誤作動であったり、感染のリスクなどは避けられないのが現状ではあります
ブルガダ症候群において症状があったら導入する、というのはシンプルで良いのですが、その最初の1回目で致死的になる可能性もあるというのが非常に怖いところであります
次は性ホルモンと他の心電図変化についても見てみます
性ホルモンとQTcの関係
1. テストステロン(男性ホルモン)
- QTc短縮作用
- 男性では思春期以降にQTcが短縮することが知られています。
2. エストロゲン(女性ホルモン)
- QTc延長作用
- そのため、女性はQT延長症候群(LQTSの特に2型)の発症率が男性よりも高く、特にTdP(トルサード・ド・ポワント)などの致死的不整脈のリスクが高いことが知られています。
思春期とQTcの変化
1. 思春期における性差の出現
- 幼児期~小児期までは、男女でQTcの差はほとんどありません。
- 思春期(12~15歳ごろ)を境に、男性のQTcが短縮することが知られています。
- 男性:QTcが短縮(テストステロンの影響)
- 女性:QTcはほぼ一定、またはやや延長(エストロゲンの影響)
この変化は、思春期における性ホルモンの分泌量の違いによるものと考えられています。
性ホルモンは思春期に大きな変化を迎え、それが脈の状態にも深くかかわることは知っておくべきことと思います
外科的精巣摘出後にブルガダ型心電図が消失したという報告もありますので、不整脈と性ホルモンはリンクしないように見えて結構な関連があります
まとめ
テストステロンの影響で男性は思春期以降QTcが短縮し、Brugada症候群のリスクが上昇
エストロゲンの影響で女性はQTcが長く、QT延長症候群(LQTS、特に2型)のリスクが高い
もしかすると、将来的には「ICDではなくホルモン補充療法でブルガダ症候群を管理する」という時代が来るかもしれません
しかし、エストロゲン補充療法は血栓症リスクを伴うため、長期投与の安全性が問題となる可能性があることは重要ですし、ブルガダ症候群の遺伝的多様性を考えると、すべての患者に対してホルモン療法が有効とは限らないことも大事な視点です
しかし、未来の医療を変える可能性は多いにあり、まだまだ引き続き注目すべき報告と感じました
以上参考になれば幸いです
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