医療画像は診断に欠かせない一方、「放射線被曝」をどう考えるかは常に議論の対象になります。
子どもが撮る可能性もあるからこそ、知識が必要ではないか
- 子どもは放射線感受性が高い
- 骨髄・甲状腺・成長細胞が多い
- 余命が長い(晩発がんの影響が出やすい)
だから、自分の子どもがCTを撮ることになったとき、
「必要かどうか」判断できる知識を持つことはとても大切である
そのために:医療従事者ではない方も、
- 日常生活の被曝量の比較
- 各検査の線量
- 医療被曝のリスクの正しい理解
こうした情報を知っておくことが重要ではないでしょうか?
今回は 画像検査ごとの被曝量の目安、最新のNEJM論文の内容、そして 日本の現状と“日本モデル”でのリスク試算をまとめました。

日常生活の中の被曝量(mSv)
そもそも私たちは「普通に生きているだけ」で、毎日必ず放射線を浴びています。
これは“自然放射線”と呼ばれ、避けることはできません。
ではどれくらい浴びているのか?
◆ 年間の自然被曝量(日本)
| 要因 | 被曝量 |
| 大地・建物からの放射線(外部被曝) | 約0.35 mSv/年 |
| 食べ物に含まれる放射性物質 | 約0.35 mSv/年 |
| 宇宙線 | 約0.30 mSv/年 |
| ラドン(空気中の自然放射性ガス) | 約0.48 mSv/年 |
合計 → 約1.5 mSv/年(平均)
※日本は世界的に見て“自然放射線が低い国”です。
※世界平均は約2.4 mSv/年、地域によっては10mSvを超える場所もあるらしい
◆ 旅客機に乗るとどれくらい被曝する?(宇宙線)
飛行機は高高度を飛ぶため、地表より宇宙線が強くなります。
| 区間 | 被曝量 |
| 東京 → 大阪 | 約0.01 mSv |
| 東京 → 札幌 | 約0.02 mSv |
| 東京 → 沖縄 | 約0.02–0.03 mSv |
| 東京 → ロンドン(欧州) | 約0.07–0.1 mSv(胸部X線1回分) |
| 東京 → ニューヨーク | 約0.1 mSv |
自然放射線 vs 医療被曝(比較)
| 検査・活動 | 被曝量 | 備考 |
| 東京〜大阪の飛行機 | 0.01 mSv | ほぼゼロ |
| 東京〜欧州(片道) | 0.07–0.1 mSv | 胸部X線1枚と同等 |
| 胸部X線(1枚) | 0.02 mSv | 生活3日分の自然放射線 |
| 頭部CT(1回) | 1.5–2 mSv | 年間自然被曝の 1年分以上 |
| 腹部CT | 3–5 mSv | 年間自然放射線の 2〜3年分 |
| PET/CT | 10–20 mSv | 年間自然放射線の 5〜10年分 |
こうして並べると、
CTが「日常の被曝」と比べてどれほど大きいかが直感的に分かる
しかし必要ならC Tを迷うべきではない
放射線は少ないほどいいのは当然ですが、臨床でCTが必要な場面も多々あります
なんとなくとったCTでくも膜下出血が見つかることもあります。
他にも
- 頭部外傷
- 腹痛の鑑別
- 肺炎・縦隔疾患
- 腫瘍の診断
- 交通外傷
- 膿瘍の有無
こういったケースでは、撮ることも多いと思います
だから医療では常にBenefit(利益) vs Risk(リスク)のバランスを考えます。
しかし日本では“撮りやすい文化”があるのも事実
私自身もCTを撮った経験がありますが、もちろん必要だったからです。
- 日本はCTが世界で最も普及している
- 患者も医師も「念のため」「とりあえずCT」が選択されやすい
- 年間CT撮影件数も世界最高水準
本当に必要なCTと“なくても良いCT”が混在してしまっている可能性がある
小児における画像検査の一般的な被曝量
各検査の「一般的な実効線量(mSv)」を整理します。
● 放射線なし
| 検査 | 被曝量 |
| 超音波(US) | 0 mSv |
| MRI | 0 mSv |
● 単純X線(Radiograph)
一般的に非常に低線量です。
| 検査 | 典型的な実効線量 |
| 胸部X線 1枚 | 0.02 mSv(日常の自然放射線3日分程度) |
| 四肢X線 | 0.001–0.01 mSv |
| 腹部X線 | 0.05–0.1 mSv |
● CT(Computed Tomography)
| 検査 | 典型的な実効線量 |
| 頭部CT | 1.5–2 mSv(骨髄線量=約13 mGy) |
| 胸部CT | 1.5–3 mSv |
| 腹部CT | 3–5 mSv |
| 外傷での全身CT | 5–10 mSv |
→ 単純X線の100〜300倍 になることがあり、過剰使用が問題視されます。
そこで今回注目した論文が、2025年 NEJM の大規模疫学研究です。
NEJM 2025:小児の医療被曝と血液悪性腫瘍リスク
以下は論文
“Medical Imaging and Pediatric and Adolescent Hematologic Cancer Risk”(NEJM 2025)
の要点です。
● 対象
- アメリカ+カナダ
- 3,724,623人(370万人超) の出生コホート
- 平均追跡期間 10.1年
● 主な結果:線量が多いほど、血液がんリスクが上昇
- 1〜5 mGy → RR 1.41
- 15〜20 mGy → RR 1.82
- 50〜100 mGy → RR 3.59
- ≥100 mGy → RR 5.64
特にリスクが高かった腫瘍は:
- 非ホジキンリンパ腫
- MDS / MPD
- ヒスチオサイト・樹状細胞腫瘍
● 絶対リスクへの換算
- 30 mGy(頭部CT 2回分)で
→ 発症率が約25/10,000人 増加 - モデル全体では
→ 10.1%の血液悪性腫瘍が医療被曝に起因しうる
● 結論
- 小児においてCTは有用だが、
累積線量が増えるほど血液がんリスクは線量依存的に上昇する。 - 不要なCTの削減、線量低減プロトコルの徹底が不可欠。
では日本では? 小児の血液がんは増えているのか?
CT大国の日本では血液がんが増えているのかはシンプルに疑問である
日本はCT使用量こそ世界トップクラスですが、
小児の白血病・リンパ腫の発生率はこの50年間で大きく増えていないらしい
小児白血病の長期推移
- 1975年以降
→ 発生率は横ばい、むしろ微減という報告もある - 年間の発生数も
→ 0〜14歳で約600例
小児リンパ腫
- 年間200例前後
- 全体として「大きく増加」はしていない
なぜ“CT大国”なのに増えていないのか?
- 絶対リスクが小さい(1万人で数人レベル)ため、全体統計に埋もれる
- CTの線量が毎年かなり低減されている
- 感染症や遺伝背景など、他の要因の影響が大きい
- 国全体レベルのエコロジカル分析では
→ 累積線量と発生率が相関しにくい
日本モデルでNEJMリスクを当てはめるとどうなるか?
最後に、NEJMのリスクモデルを日本の小児に当てはめた場合の計算をchat GPTmにしてもらいます
仮定(控えめ設定らしい)
- 日本の小児の年間CT受検率:5%
- 1回の平均骨髄線量:15 mGy
- 小児期の平均累積:20 mGy
- 小児血液悪性腫瘍:年間 約800例(白血病+リンパ腫)
NEJMのモデルでは、
- 20 mGy → RR ≒ 1.5
日本全体での寄与割合(PAR)を計算すると、
小児血液がんの約2.4%が医療被曝由来の可能性
統計的なことはよくわからんので続けます
年間症例数でいうと…
- 800例 × 0.024 = 19.2例
つまり、年間 15〜25人程度が “医療被曝に起因する可能性”という推定になるらしい
多いのか少ないのか?
視座を変えて考えてみます
疫学/公衆衛生の視点:
15〜25例/年は「非常に少ない」
日本の小児血液悪性腫瘍の総数は 年間 約800例。
そのうち NEJMモデルで推計した医療被曝起因:
- 15〜25例(=2–3%程度)
これは疫学的には “統計的にかなり小さい寄与” です。
さらに言うと:
- 風邪・ウイルス感染の流行
- 出生数の減少
- 登録制度の改善
などの「背景ノイズ」で簡単に隠れる程度の差です。
つまり 「人口レベルでは小さな影響」
臨床医の視点
稀ではあるが、“完全に無視して良いほど小さくもない”
- CT検査は頻度が高い
- リスクは線量依存
- 1回では小さくても、累積すると無視できない
特に「頭部外傷で2回CT」「小児がん治療のフォローで複数回CT」などの子どもは
個人レベルのリスクが1.5〜3倍になる可能性がある。
つまり、
- 「全体にとってはわずかだが、個人にとっては一定の意味を持つ」
- だから最適使用(Justification)と線量最適化(Optimization)が必須
時間猶予あるならMRIにしよかなという判断
といっても小児の場合、MRIは時間がかかるから、鎮静のリスク問題も出るかも知れない
まとめ
- 小児は放射線感受性が高く、CTの累積線量は血液悪性腫瘍リスクと線量依存的に関連する。
- 日本はCTが非常に多いが、小児白血病の発生率は大きく増えていない。
- とはいえ日本モデルでの推計では
年間15〜25人の小児血液がんが医療被曝起因の可能性があり、
やはり「必要最小限のCT」「線量低減」は重要。
子どもがいると、こけたり落ちたりしてどっかで頭を打つものですからC Tを撮る機会というのは多いのではないでしょうか
医療従事者もですが保護者の方も知識を持って、被曝量を減らすことは重要と感じます
以上参考になれば幸いです

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