前皮神経絞扼症候群(ACNES)とは?原因、症状、そして治療法

健康・減量

慢性的な腹痛に悩まされているが、原因がわからない…そんな方は少なくありません

しかし、救急受診する腹痛のほとんどが明確にされず、一過性に症状が治ることも多いと思います

ただ、慢性腹痛の中で意外と知られていないのが「前皮神経絞扼症候群(ACNES)」です

最近では、ちょくちょく学会誌などで見かける気がします

去年もなんかで見て、記事にしよかなと思ったので、今回は記事にします

知らんと診断できないシリーズです

診断したことはありませんが、この疾患は知らないと全く診断できないと思います

臨床経験が豊富でも、知らないとこの疾患には辿り着けない

ACNESについての基本的な情報や症状、診断方法、治療法について解説します。

ACNESとは?

定義: 前皮神経絞扼症候群(Anterior Cutaneous Nerve Entrapment Syndrome, ACNES)は、腹壁の前皮神経が絞扼されることにより、腹痛を引き起こす状態です。

発生機序: 腹直筋の筋膜を通過する神経が圧迫されることで、局所的な痛みを引き起こします。

ACNESの疫学

発症率と有病率:

  1. ACNESは比較的稀な疾患と考えられてきましたが、近年では慢性的な腹痛の原因の一つとして認識され始めています。いくつかの研究では、慢性腹痛の原因として、約2~3%がACNESに関連していると報告されています​

約2~3%は結構多い

性別および年齢分布:

  1. ACNESはどの年齢層でも発症する可能性がありますが、成人、特に若年成人や中年の女性に多く見られる傾向があります。小児においてもACNESが認識されるようになっており、腹痛の原因として考慮されるべき疾患の一つです。

前皮神経とは(anterior cutaneous nerve)

主に胸腹部の皮膚に感覚を伝える役割を果たす神経です。この神経は、胸腹部を走る肋間神経(intercostal nerves)の枝として機能し、皮膚に感覚情報を送ります。

前皮神経の解剖学的概要

経路:
前皮神経は、腹直筋(rectus abdominis muscle)を通過し、腹部の皮膚に到達します。腹直筋の筋膜を通過する際に、神経が圧迫されやすくなることがあります。これが、前皮神経絞扼症候群(ACNES)の原因の一つとなります。

前皮神経に関する問題の理解は、慢性的な腹痛の診断と治療において重要であり、特に他の消化器系疾患や精神的な要因と区別するために不可欠です。

ACNESの原因と診断治療

ACNESの原因と症状

  • 物理的要因: 腹部への外傷、手術後の瘢痕形成、筋肉の緊張などが神経の絞扼を引き起こすことがあります。
  • 解剖学的要因: 特定の解剖学的構造が神経の圧迫を引き起こすこともあります。

主な症状

  • 腹部の局所的な痛み: 持続的または断続的な鋭い痛み。
  • 圧痛点: 痛みのある部位を押すと強く痛む。
  • 痛みの特徴: 動作や姿勢の変化で痛みが増悪することがあります。

ACNESの診断方法

  • 臨床的評価: 病歴の聴取と身体診察が重要。
  • 具体的には、圧痛点の確認やCarnett’s sign(腹筋の収縮で痛みが増強するかどうかのテスト)を行います。
  • 神経ブロックテスト: 局所麻酔薬を使用した神経ブロック注射により痛みが軽減するかどうかを確認します。

 治療法

  • 保存的治療: 痛みを緩和するための鎮痛薬や抗炎症薬の使用。
  • 神経ブロック: 局所麻酔薬の注射による痛みの管理が有効。
  • 手術: 保存的治療が効果を示さない場合は、神経の解放手術を考慮します

仮に腹部に圧痛点があっても、全身状態が良く、造影CTして何もなければ機能性の腹痛で終わりそうなんですよね、臨床医がこの疾患を知ってるかどうかで、神経ブロックに行くかどうか分かれると思う

臨床してて腹痛に対して診断のために神経ブロックってすぐに浮かばんかな

ACNESと精神疾患の誤診リスク

  • 非特異的な症状: ACNESの症状は腹部に限局した痛みであり、しばしば患者が「腹痛を訴えているが、身体的な原因が見つからない」という状況が発生します。これにより、精神的な要因が疑われることがあります。
  • 診断の難しさ: ACNESは腹壁に存在する前皮神経の絞扼が原因であるため、特定の臨床的手技(例えば、Carnett’s sign)や局所麻酔のブロック注射によってしか診断が確定しないことがあります。このような診断の難しさが、精神疾患や心因性疼痛と誤診される原因となります。
  • 患者の心理的影響: 長期間にわたる疼痛や、原因が明確に診断されない状況は、患者に心理的なストレスや不安を引き起こすことがあります。これがさらに、患者が精神疾患と誤診されるリスクを高める要因となり得ます。

おそらく臨床症状からは不定愁訴に聞こえてくるのだと思います

腹痛がある方からすると実際に痛いのに、精神的なものやでって言われ続けると辛いものがある

認知度はおそらく低いと思うけど、医療者もこの疾患があることの理解はすべきと思われる

モデルケース

  • 32歳、女性
    職業: 事務職
    主訴: 右下腹部の持続的な痛
  • 経過
  • 約2年前から右下腹部に持続的な痛みを感じるようになりました。最初はストレスや疲れのせいだと思い、あまり気にしていませんでしたが、次第に痛みが強くなり、日常生活にも支障をきたすようになりました。特に、長時間座ったり、体をひねったりする動作で痛みが悪化することが多く、夜間も眠りが浅くなることが増えてきました。
  • 診察と診断
  • いくつかの病院を訪れ、血液検査や超音波検査、CTスキャンなどを受けましたが、明確な異常は見つかりませんでした。内視鏡もしましたが、最終的には「機能性腹痛」や「ストレスによる腹痛」と診断され、精神的な要因が指摘されました。しかし、痛みは一向に改善せず、日常生活に大きな支障をきたしていました。ある日、彼女はインターネットで見つけた情報を元に、腹壁の痛みに詳しい新しい医師の診察を受けました。話を詳しく聞き、腹部を丁寧に触診しました。その際、右下腹部に圧痛点があり、そこを押すと痛みが強くなることが確認されました。医師はACNESの可能性を疑い、局所麻酔を使った神経ブロックテストを提案しました。テストを行ったところ、痛みは驚くほど軽減されました。この結果から、医師は前皮神経絞扼症候群(ACNES)であると診断しました。

かなりフィクションですが、大事なところは、やはり血液検査やCT検査では引っ掛けられない所かな、それで追加で内視鏡してもわからんというところ

緊急性もなさそうやから、それ以上の精査は不要と判断され、機能性疼痛に落ち着いてしまう

まとめ

ACNES(前皮神経絞扼症候群)は、慢性的な腹痛を引き起こすため、しばしば他の疾患、特に機能性腹痛や精神的な要因に関連する疼痛と誤診されることがあります。ACNESの痛みが画像検査や血液検査では異常が見つからないことが多いためです一部の研究でも、慢性腹痛を抱える患者の中で、ACNESがしばしば見落とされ、精神疾患や機能性腹痛と誤診されることが指摘されています

ACNESは適切な診断と治療があれば管理可能な状態ですので、知っておくべきかなと。

プライマリケア医も原因不明の持続的な腹痛を診察した場合は、ACNESの可能性を考慮すべきかもしれません

知ってるか知らんかで大きく変わる疾患の一つな気がします

以上参考になれば幸いです

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