腹痛の鑑別と虫垂炎での抗菌薬の使用について

健康・減量

腹痛を主訴に来院される方は非常に多い、そして困ったことに鑑別疾患も多いです

急性腹症としては、タイトルにある虫垂炎(Appendicitis)が最も多いとは限りませんが、非常に一般的な原因の一つです。

急性腹症とは、急激に発生する腹部の痛みを伴う状態を指し、様々な原因があります。

虫垂炎はその中でも特に一般的で、特に若年層で見られることが多い症状です。

他にも胆石症、腸閉塞、胃腸炎、尿路結石などが急性腹症の原因として挙げられます。

最近は虫垂炎も抗菌薬でも同等との論文がちらほらあるし、内服でもOK的な論文を見たので腹痛関連の記事にします

腹痛のおじさん

腹痛の鑑別診断

腹痛の原因は非常に多岐にわたるため、症状の特徴(痛みの場所、性質、持続時間)、関連症状(吐き気、発熱、下痢など)、患者の年齢、性別、既往症など多くの要素を考慮する必要があります。

以下は腹痛の鑑別診断において考慮される一般的な原因のカテゴリーです

  1. 消化器系の疾患
    • 胃腸炎
    • 消化性潰瘍
    • 胆石症
    • 膵炎
    • クローン病や潰瘍性大腸炎のような炎症性腸疾患
  2. 泌尿器系の問題
    • 腎結石
    • 尿路感染症
  3. 婦人科関連の問題(女性に限定):
    • 妊娠に伴う合併症(例:子宮外妊娠)
    • 卵巣嚢腫の捻転
    • 子宮内膜症
  4. 感染症
    • 腸管感染症
    • 腹膜炎
  5. 循環器系の問題
    • 心筋梗塞や大動脈解離のような、腹部への放散痛を伴う循環器疾患
  6. 代謝性や内分泌的な問題
    • 糖尿病の合併症(ケトアシドーシス)
    • 副腎不全
  7. 外科的緊急事態
    • 腸閉塞
    • 胆嚢炎
    • 虫垂炎

血液検査、尿検査、画像診断(X線、CTスキャン、MRI)、場合によっては内視鏡検査などが診断のツールです。

適切な鑑別診断には、詳細な病歴の聴取と体系的な身体検査が不可欠で、そうでないと上記検査のしすぎ、しなさすぎになってしまいます

自分も腹痛があることがあるし、自分の子どもも腹痛を訴えることはしばしばありますので、日常的にも遭遇します

改めて、ざっと服痛の鑑別をあげると服痛の範囲の広さ、そしてそこそこ急性疾患のある怖さを感じますね

さて、今回は虫垂炎がメインですので、虫垂炎に焦点を当てます

虫垂炎とは一体何?

盲腸の一部である虫垂が炎症を起こす病状です。

虫垂は小さな管状の組織で、回盲部を超えた、大腸の初めの部分に位置しています。

この状態は主に詰まりから起こることが多く、詰まりの原因には便の固まり(糞石)、リンパ組織の腫れ、または異物などがあります。

主な症状

  • 急激に始まる腹痛:痛みは最初はおへその周囲で感じられることが多く、その後右下腹部に移動することが一般的。
  • 食欲不振
  • 吐き気や嘔吐
  • 発熱

診断

虫垂炎の診断は、症状の評価、身体検査(特に腹部の触診)、血液検査(白血球数の上昇が見られることが多い)、画像診断(超音波やCTスキャン)に基づいて行われます。これらの検査は他の腹痛の原因を除外するのにも役立ちます。

治療

虫垂炎の標準治療は、虫垂の外科的切除(虫垂切除術)です。軽度の場合や外科的介入が難しい患者では、抗生物質による治療が選択されることもありますが、施設によります

虫垂炎における抗菌薬治療は効果も同様のはず

虫垂炎の治療において、抗菌薬だけを使用するアプローチは確かに一部の症例で有効とされています。これは特に手術に適さないリスクが高い患者や、早期の非複雑性虫垂炎(破裂していない虫垂炎)の場合に検討されることがあります。

抗菌薬治療の適応

抗菌薬のみによる治療が検討されるのは以下のような状況です

  1. 非複雑性虫垂炎:虫垂がまだ破裂していない初期の段階。
  2. 手術リスク:重大な合併症リスクを持つ患者や、他の医療状態が手術を困難にする場合。
  3. 患者の選択:手術を希望しない患者。

効果と限界

いくつかの研究では、抗菌薬による治療が非複雑性虫垂炎において手術と同等の成果を示すことが報告されています。

これにはいくつかの重要な留意点があります:

  • 再発リスク:抗菌薬治療後に虫垂炎が再発する可能性があり、その場合は結局手術が必要になることがあります。
  • 診断の正確性:非複雑性虫垂炎かどうかを正確に診断することが重要です。誤診により不適切な治療が行われるリスクがあります。
  • 長期的な結果:長期的な追跡調査において、抗菌薬治療のみの患者が後に手術を必要とするケースがある。

抗菌薬による治療は適切な症例選定と厳格な医療監視の下で有効な選択肢となり得ますが、すべての虫垂炎患者に適用可能なわけではありません。特に症状が進行している場合や、診断が不確かな場合は、手術がより確実な治療法とされています。

実際の虫垂炎に対する抗菌薬使用の論文は

APPAC Study (Antibiotic Therapy vs Appendectomy for Treatment of Uncomplicated Acute Appendicitis):

  1. 著者: Salminen P, Paajanen H, Rautio T, et al.
  2. 発表年: 2015
  3. 概要: このランダム化比較試験では、非複雑性の急性虫垂炎患者に抗菌薬治療と虫垂切除術の両方が行われ、抗菌薬治療が手術の有効な代替手段である可能性を示しました。しかし、一部の患者では後に手術が必要となることも確認されました。

There were 273 patients in the surgical group and 257 in the antibiotic group.Of 273 patients in the surgical group, all but 1 underwent successful appendectomy, resulting in a success rate of 99.6% (95% CI, 98.0% to 100.0%). In the antibiotic group, 70 patients (27.3%; 95% CI, 22.0% to 33.2%) underwent appendectomy within 1 year of initial presentation for appendicitis. Of the 256 patients available for follow-up in the antibiotic group, 186 (72.7%; 95% CI, 66.8% to 78.0%) did not require surgery. The intention-to-treat analysis yielded a difference in treatment efficacy between groups of −27.0% (95% CI, −31.6% to [1]) (P = .89). Given the prespecified noninferiority margin of 24%, we were unable to demonstrate noninferiority of antibiotic treatment relative to surgery. Of the 70 patients randomized to antibiotic treatment who subsequently underwent appendectomy, 58 (82.9%; 95% CI, 72.0% to 90.8%) had uncomplicated appendicitis, 7 (10.0%; 95% CI, 4.1% to 19.5%) had complicated acute appendicitis, and 5 (7.1%; 95% CI, 2.4% to 15.9%) did not have appendicitis but received appendectomy for suspected recurrence. There were no intra-abdominal abscesses or other major complications associated with delayed appendectomy in patients randomized to antibiotic treatment.

Antibiotic Therapy vs Appendectomy for Treatment of Uncomplicated Acute Appendicitis)

外科グループには273人の患者がおり、そのうち272人が成功裏に虫垂切除術を受け、成功率は99.6%(95% CI, 98.0% to 100.0%)でした。抗菌薬グループには257人の患者がおり、初回の虫垂炎発症から1年以内に70人(27.3%;95% CI, 22.0% to 33.2%)が虫垂切除術を受けました。抗菌薬グループでフォローアップ可能だった256人のうち、186人(72.7%;95% CI, 66.8% to 78.0%)は手術を必要としませんでした。意図を持った治療分析によると、グループ間での治療効果の差は−27.0%(95% CI, −31.6% to -)(P = .89)であり、抗菌薬治療の非劣性を示すことはできませんでした(非劣性の事前設定マージンは24%)。抗菌薬治療にランダム化された後に虫垂切除術を受けた70人の患者のうち、58人(82.9%;95% CI, 72.0% to 90.8%)は非複雑性虫垂炎であり、7人(10.0%;95% CI, 4.1% to 19.5%)は複雑性急性虫垂炎であり、5人(7.1%;95% CI, 2.4% to 15.9%)は虫垂炎と診断されずに再発が疑われるため虫垂切除術を受けました。抗菌薬治療にランダム化された患者で遅延虫垂切除術を受けた患者において、腹腔内膿瘍やその他の重大な合併症は発生しませんでした。

これは抗菌薬は静脈投与になります

続いては、

Non-operative treatment of acute appendicitis in children: clinical efficacy of amoxicillin-clavulanic acid in a retrospective single-centre studyという論文から

対象は小児になります

Results 

The initial success rate of amoxicillin-clavulanic acid NOT in children with AUA was 100% (104/104 patients). The success rate at 2 years was 85.6% (89/104) at discharge. None of the 15 patients who underwent surgery after recurrence of appendicitis presented with peritonitis, appendiceal perforation nor pelvic abscess. 

Conclusion Narrowed antibiotic therapy with amoxicillin and clavulanic acid seems to be an alternative to surgery in children with AUA. It is necessary to wait for the results of ongoing studies to confirm these results

Non-operative treatment of acute appendicitis in children: clinical efficacy of amoxicillin-clavulanic acid in a retrospective single-centre stud

結果

アモキシシリン・クラブラン酸を用いた治療の初期成功率は、急性未破裂虫垂炎(AUA)を持つ子供たちにおいて100%(104人中104人)でした。退院時の2年後の成功率は85.6%(104人中89人)でした。再発後に手術を受けた15人の患者の中で、腹膜炎、虫垂穿孔、骨盤内膿瘍を発症した者はいませんでした。

結論

アモキシシリンとクラブラン酸の限定的な抗生物質療法は、急性未破裂虫垂炎を持つ子供において手術の代替となり得るようです。これらの結果を確認するためには、進行中の研究の結果を待つ必要があります。

これは抗菌薬は内服です

軽症虫垂炎であれば、内服で勝負できる可能性が高いのかもしれません・・・

時代が変わったなぁと感じます

まとめ

腹痛の鑑別から、虫垂炎についてまとめました

以前は虫垂炎といえば、手術のイメージでしたが、最近は抗菌薬は結構奏功している印象があります。

2個目もの論文なんか、未破裂の虫垂炎の初期成功率は100%ですから

再度罹患する可能性はありますが・・・

子どもの場合は胆石も少ないし、ある程度vitalの落ち着いている腹痛、虫垂炎か急性胃腸炎の2択という状況なら、とりあえずアモキシシリン・クラブラン酸を内服させればなんとかなりそうな気がする

仮に尿路感染でも市中のかわいい大腸菌なら勝負できるし

ただ、ウイルス性胃腸炎だと下痢が悪化するか・・・

自分の子が虫垂炎かもだったら、とりあえずアモキシシリン・クラブラン酸を内服させようと思います

以上参考になれば幸いです

おまけ

最近はAIで、画像作成するのでブログの画像を探す手間が省けますし、著作権問題も気にしなくていいので楽です。

chat GPTも精度が上がってきているのですが、まだ完璧じゃないですね

AI 盲腸間違い

虫垂が完全に直腸部分にあります www

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